◎「とぎ(研ぎ)」(動詞)
「ときぎ(鋭きぎ)」。「と(鋭)」は、効果、が累進的に増していくこと(その項・9月6日)。「き」はものがものに触れ強い圧力を加えつつ移動することを表現する擬音。「きゅきゅ」や「きりきり」になる「き」。「ぎ」は活用語尾であり、濁音は動態の持続性を表現する。つまり、「ときぎ(鋭きぎ)→とぎ」は、ものがものに触れ強い圧力を加えつつ移動しそれによりそのものによる効果が累進的に増していく。擦(こす)り削(けづ)り効果が増していく、のような意味。これが具体的にどういうことを表現するかというと、代表的には、刃物の刃を擦り削り、なめらかになり光を反射するようにもなり、より鋭利になりよく切れよく刺さるようになったり、鏡の表面がより滑らかになりよく光を反射するようになったりする。心に、その効果をより鋭敏なものにする努力をすれば「心をとぎすます」。「米をとぐ」という言い方もありますが、これは、米は古び汚れた汚いものというわけではないので、「あらふ(洗ふ)」わけではないということでしょう。「とぐ」ことにより効果的なものをより効果的にする。
「剣太刀(つるぎたち)いよよ研(と)ぐべし(刀具倍之)古(いにしへ)ゆさやけく負ひて来(き)にしその名ぞ」(万4467)。
「まそ鏡磨ぎし(磨師)心をゆるしてば後に言ふとも験(しるし)あらめやも」(万673)。
◎「どき(退き)」(動詞)
「でおき(出措き)」。「出(で)」を措く(控える)。出ないようにする。現状を「出(で)」と知り、出ないようにする(つまり、退(しりぞ)いたりよけたりする)。進行に対して行えば、その進行を妨げないようにする。命令の「どけ」は、出(で)を措け(控えろ)→引っ込め、や、出るな、の意。他動表現「どけ(退け)」もあり、使役型他動表現「どかし(退かし)」もある。
「『…人込(ひとごみ)の中だはな。些(ちつと)ははねもかゝからねでへさ。湯水を遣(つか)ふのだものを、かゝるが悪くは遠くへ退居(どいて)るがいゝ』」(『浮世風呂』:このセリフは「した」と書かれる女のものなのであるが、この「した」に関しては本書に「片言(かたこと)ばかり並べるゆゑ、よくよく振仮名に気をつけて読み給ふべし」と書かれている)。