◎「とき(溶き・梳き・解き・説き)」(動詞)

「とけ(解け)」の他動表現。「とけ(解け)」の状態にすること。すなわち、(それゆえに凝固感を感じる)独立した存在感を消失させ融和感が感じられるような状態にすること。とかれるのは凝固的状態にある物体(溶(と)き。髪なら「梳(と)き」)だけではなく、(脳ニューロンの反応のあり方として)障害無く流通しない思考のあり方や記憶、すなわち問題や疑問、である場合もある(疑問緊張の解消。それらを解(と)く)。またそれは人間関係であることもあり、そのために人をとく(説(と)く)こともある(相互の不理解緊張の解消)。

「太刀が緒(を)も いまだ解かずて(登加受弖) 襲(おすひ)をも いまだ解かねば(登加泥婆)…」(『古事記』歌謡2)。

「袖ひちてむすひし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ」(『古今和歌集』:春風が氷をとく、という表現であるが、後世では、氷をとかす、氷がとける、という言い方が一般的になっていく)。

「御髪(みぐし)手づからけづりたまふ。……………ときはてたれば、つやつやとけうらなり。」(『源氏物語』:髪をとく)。

「『唯今なん、御車のしやうぞく(装束)ときて、みずゐしん(御随身)ばらもみな乱れはべりぬ』」(『蜻蛉日記』)。

「大覚寺殿にて、近習の人、なぞなぞを作りて解かれける処へ」(『徒然草』:謎をとく、疑いをとく、問題をとく、といつた言い方をする)。

「法(のり)の師の世の理(ことわり)とき聞かせむ所の心地するも」(『源氏物語』:理(ことわり)をとく。これは、世をとく、と言ってもいい。といたその言語表現が世を部分化し全体化すればそれは「ことわり」になる)。

「天皇(すめらみこと)、皇太子(ひつぎのみこ)を請(ま)せて勝鬘經(しようまんぎやう)を講(と)かしめたまふ。三日(みか)に說(と)き竟(を)へつ」(『日本書紀』:「請(ま)せ」は、「いまし(坐し)」の「い」が無音化した表現の使役。いらっしゃらせて、のような表現になる)。

「警戒をとく」。「囲みをとく」。「任(ニン)をとく」(解任する)。

 

◎「とけ(溶け・解け)」(動詞)

擬態「とろ」の動詞化。「とろ」がそのまま保存されている「とけ(溶け・解け)」の後に生まれたであろう「とろけ」という動詞もある。擬態「とろ」はその項参照。固体が液状化したりするその崩壊・溶解状態を表現する。「とけ(溶け・解け)」は物体(たとえば氷)やその構成(たとえば紐の結び目。人の構成なら、包囲)であれ、知的状態(たとえば問題)・心情状態(例えば緊張)・社会的状態(たとえば役職や地位)であれ、凝固にそうした崩壊・溶解が生じることを表現する自動表現。他動表現「とき(溶き・梳き・解き・説き)」、使役型他動表現「とかし(溶かし・梳かし)」がある。

「薄氷解けぬる池の鏡には…」(『源氏物語』)。

「昼解け(とけ:等家)ば解けなへ紐の我が背なに相寄るとかも夜解けやすけ」(万3483)。

「さりとも今宵日ごろの 恨みは解けなむ、と 思ひたまへしに…」(『源氏物語』)。

「…嬉しみと 紐の緒解(と)きて 家のごと 解(と)けてぞ遊ぶ…」(万1753:我が家にいるように何の緊張や気遣いもなくくつろぎ遊ぶ)。

「かの、解けたりし蔵人も、還(かへ)りなりにけり」(『源氏物語』:これは解任されていた蔵人。それが復任した)。

「問題がとけ」。「謎がとけ」。

 

◎「とかし(溶かし・・梳かし)」(動詞)

「とけ(溶け・解け)」の使役型他動表現。

「TOKASHI(トカシ),―su―ta. トカス, 觧, t.v.  To dissolve(分解する), to melt(溶かす), to untie(解(ほど)く),unravel(解(と)く、ほぐす).  Kusuri(クスリ) wo(ヲ) midzu(ミヅ) ni(ニ) ―, to dissolve medicine in water(薬を水で溶かす). Kori(コオリ) wo(ヲ) ―, to melt ice(氷をとかす)」(『和英語林集成』)。

「『おまはんの首(つむ)りがひどくうつとしそふだねへ。そつと束ねてあげよふかへ。……』『そふよ、まだ居ても能(よか)ァそろそろととかしてくんなァ』」(『春色梅児誉美』)。