◎「でも(1)」

「~でへむを(で経むを)」。「を」は状態を表現する。表現には逆接と順接がある。

・逆接

「たとへ私が仏でも、男が茶屋者請出す、其のひいきせう筈がない」(「浄瑠璃」『心中天の網島』:私が仏であるという状態をけいかしつつ、しかし…)。

「売買(うりかひ)高い世の中でも、金と癖漢(たはけ)は沢山なと」」(「浄瑠璃」『心中天の網島』:「売買(うりかひ)高い」は、計算高い、のそれのように、ある行為が突出している、ということか。売り買いに、経済的なことばかりに、向かっていく傾向のある世の中、ということ。そんな世の中でも、癖漢(たはけ)が金(かね)の力をもっているような事態はたくさん)。

「薬礼(やくれい)と葬式の雑用(ざうよう)とに多(おほく)もない貯叢(たくわへ)をゲツソリ遣ひ減らして、今は残り少なになる。デモ母親は男勝(をとこまさり)の気丈者(きぢやうもの)、貧苦にめげない煮焚(にたき)の業(わざ)の片手間(かたでま)に…」(『浮雲』(二葉亭四迷):それまでの文でいわれたような状態を経過しつつ、しかし…)。

・順接

「『其(それがし)に一禮をせずは其(それがし)す(酢)をうらする(売らする)事ではないぞ』『夫には又子細でも有るか』」(「狂言」『酢薑(すはじかみ)』:子細(詳しい事情)としての経過するであろうそんな経過状態たることがあるか)。<br/>

「『今の銭(ぜに)で蕎麦でも喰ふべい』」(『東海道中膝栗毛』:蕎麦で経過するであろう。そんな経過状態で食う)。

「『私しやア道までも往つて余所ながらでも最う一度逢ひたうござゐますヨ』」(「人情本」『いろは文庫』余所ながらと経過するであろうそんな経過状態でもう一度会いたい)。

 

◎「でも(2)」

「ぬとへむを(ぬと経むを)」。「ぬ」は否定。「ぬとへ→で」という変化があるが(→「で(助(2))」の項。「君ならで誰にか見せむ…」(『古今和歌集』))。それによる「でむを」でも問題ない。「を」は状態を表現し、~ではない状態で、の意。

「霜のいとしろきも、またさらでもいと寒きに」(『枕草子』:また、さあらぬとへむをいと寒きに:また、そうではない(霜がいと白いというわけではない)という経過状態で非常に寒いときに)。

「いはでもがな」(言わない状態でいれば(そうだといいのに))。