◎「てご(手児)」

「てご(手子)」。幼児がこちらへ(親へ)向かって手をのばす印象による表現。その手をとり、手によって一体化している子。「みどりご(緑児)」のような乳幼児ではない。親の手を離れ一人で動き回るほど成長した子でもない。そんな幼い子。この語が、絶対的に愛らしい子、を意味するような語になり、「真間(まま:地名)の手児奈(てこな)」の伝承というものがあるが、「てこ」が、愛称なのではあろうが、個人名のような状態になっている。

「剣大刀(つるぎたち)身に副(そ)ふ妹を取り見がね哭(ね)をぞ泣きつるてご(手児)にあらなくに」(万3485)。

「てこは東俗のことはに女をてこといふ」(『続歌林良材集』(1600年代中頃から後半?))。

 

◎「でこ(額)」

「でカフ(出甲)」。「甲(カフ)」は、『説文』に「甲象人頭」とも書かれ、『廣韻』に「鎧也」とも書かれるような字。「手の甲(カフ)」「足の甲(カフ)」といった表現もあるが、「甲象人頭」にあるように、頭(主たるもの、や、最初のもの、といった意味も)も意味する。この、出ている「甲(カフ)」、という表現が、出ている額 (ひたひ)、という意味にもなり、額(ひたひ)を意味する俗語的な表現にもなり、「お(御)」がついて「おでこ」とも言う。

この語の語源は一般に「でこぼこ(凸凹)」の「でこ(凸)」と言われる。しかし、その語は身体のある部分を特定表現するには特定性が弱いように思われる。

「『…出かした、出かした』『出かした、出かしたでは可笑(をかし)くねへ喜次郎さんは頭が大きひからでこしたと言てへ』」「『アゝいたいた(痛痛)此(この)東埔塞(かぼちゃ)ァ何故人の頭を打ッた』『ハゝアお蔭で額(ひたひ)の出子(おでこ)がへこんたらふ』」(「滑稽本」『七偏人』)。

「と愛知も立ちどまって振りかへりながら、にこにこと此方を見おろして白いおでこの汗をふいた」(『竹沢先生と云ふ人』(長与善郎))。