◎「でき(出来)」(動詞)
動詞「で(出)」と「き(来)」。現れ、出現し、現実化する、という表現なのですが、これが将来的に表現されると可能表現になる。活用は、初期には動詞「き(来)」が生きておりカ行変格活用になり「禍は口からでくるぞ」「田はでこまい」といった言い方がなされますが、後には、動詞「でき」が成熟し「禍は口からできるぞ」(禍は口から現れる)「田はできまい」(田は現実として現れない)といった言い方がなされるようになっていく。
「かかる心え(心得)いてくる也」(『世子六十以後申楽談儀』「一 こゑの事」:これは「法政大学鴻山文庫蔵」とあるものなのですが、「いてくる」と読める。これは「出(いで)来(く)る」でしょう。「い」が脱落すれば「でくる」であり、連用形は「でき」)。
「『…二月(ふたつき)か三月(みつき)も慣(な)るれば。誰(だれ)にでも出来(でく)る事だ』」(『二人女房』(尾崎紅葉))。
「泉州に唐(から)かね屋とて金銀に有徳なる人出来(でき)ぬ」(『日本永代蔵』:これは、現れた、のような意)。
「子ができ」。「新しい家ができ」。
「『ヲツトヲツト、東西東西、おらが内でそんな咄は出来(でき)ねへ』」(「滑稽本」『浮世床』:出現し成立しない、ということなのですが、可能の否定になる)。
「仕事ができる」(仕事に有能)。「できた人だ」(人柄に出現成立した完成感がある)。「あの女、あいつとできてる」(これは男女間の関係に現実的な出現感があることをいう)。
◎「でかし」(動詞)
「でき(出来)」に「おびやかし(脅かし)」その他にある「かし」がついたもの。「かし」はその項参照(2021年2月24日)。「でき(出来)」にその「~かし」がつけば「でかかし」のような音(オン)になりますが、一音消えた。「でき(出来)」には出現と可能の二つの意味がありますが(→「でき(出来)」の項)、それに応じて、出現させる、現実のものにする、と、可能を現出させる→やってのける、うまくなしとげる(→「でかした!」)、といった意味になる。
「野火……山ニハワラビ(蕨)ヲハヤウ(早く)テ(で)カサウトテヤクソ(焼くぞ)ヒロイ(広い)野ヲモ火ヲ付(つけ)テヤクソ(焼くぞ)」(『玉塵抄』:早く出現させ成立させようと、の意)。
「むかし、をとこありけり。ならぬ狂言を、かりにも出かしたがりけり」(『癇癖談(くせものがたり)』:それが本物ではなくかりそめのものであっても、狂言をなしとげているという状態になりたがり)。
「『先は利根なやつじや。某が目が行と目見え(顔見せ挨拶的な出会い)が濟んだと思ふてちやとのいたはでかしおつたなあ』」(『今參(いままゐり)』)。