◎「で」(助)(1)
「にて」。「に」も「て」(「とへ」(「て」(助・助動)の項))も助詞。つまり「にて」が「で」になった。空間的・理念的場所、手段その他を表現する。「外でばったり会う」。「手で食べる」。「そこで我々としては…」。「で? その後どうなったの?」(「で」の前の、それ、や、そこ、が省略される)。
◎「で」(助)(2)
「ぬとへ(ぬと経)」。「ぬ」は否定を表現する。「~で(~ぬとへ)」は、~ではない状態が思念化し、その思念化した状態で経過していることが表現される。~ではないという経過で。「~ず」の意。
「さては、扇の(骨)にはあらで、くらげの…」(『枕草子』)。
「あひ思はで離(か)れぬる人をとどめかね…」(『伊勢物語』)。
「『な疎(うと)みたまひそ。………なめしと思さで(見放さず)、らうたくしたまへ』」(『源氏物語』)。
「君ならで誰にか見せむ梅の花…」(『古今和歌集』)。
・「~ならでは」は「~ならぬ(~にあらぬ)とへは…」。「あの俳優ならではの演技」は。あの俳優にあらぬと経は(あんな経過は、あんな演技は、ないだろう)…の演技。「懸樋(かけひ)の雫(しづく)ならではつゆ音なふものなし」(『徒然草』)は、懸樋(かけひ)の雫(しづく)にあらぬと経はつゆ音なふものなし(懸樋(かけひ)の雫(しづく))の音しかない)。つまり、前者の「あの俳優ならでは…」では言外に「ああいうことはない」という否定が含意されている。後者をそれで表現すれば「懸樋(かけひ)の雫(しづく)ならではの音」。