◎「つんざき(劈き)」(動詞)

「つむじさき(辻裂き)」。「つむじ(辻)」はここでは十字路(→「つじ(辻)」の項・5月14日)。「つむじさき(辻裂き)→つむじさき・つんざき」は、十字裂き、のような意。切れ目たる一線が入り裂くのではなく、複数の線が交差状に入る状態で裂く。

「擘 …サク…ウツ ヒラク…ヒキサク ツムザク」(『類聚名義抄』)。

「いまも其の梭(ひ)の音は わが耳を擘裂(ツンザ)く如くにきこゆるなる」(『蓬莱曲』(北村透谷))。

 

◎「つんぼさじき(聾桟敷)」

「つんぼさじき(聾桟敷)」という語がある。これは、江戸時代(それ以前でもいいですが)、芝居小屋の桟敷(観客席)における正面二階(その位置でなくともいいですが)、もっとも奥が、舞台の声が聞こえず、そこにつめかけ立ち見する客たちがまるで棒(ボウ)を積み立てたようにただ茫然としていたことから、そうした状態にある桟敷を「つみボウさじき(積み棒桟敷)」と言い、その変化。そしてそのような立場(声の聞こえない立場)におかれることを「つんぼさじきに置かれる」と言い、そうした立場にある人を「つんぼう・つんぼ」と言う。「つんぼうさじき」とも言う。「皆下(くだり)役者の時代物、聾(つんぼう)桟敷の耳遠きをいかにせん」(『東海道中膝栗毛』:「つんぼう」は原文にある読み仮名)。

(参考)

「御身はこりやみヽがきこへまするか…………三ヶ年此かた、つくりつんぼうと成て世上のふうぶんをためす所に、大かたまことのつんぼうと思ひはだ(肌)をゆるす…」(「浄瑠璃」『信田小太郎』(近松門左衛門))。

「『ヤイヤイ、つんぼ。つんぼはおらぬか。聾、聾』『イヤ、呼ばるヽさうな。ハァ、呼せられまするか』『今の程聲をはかりに呼ぶにどれにいた』『お次(次の間・隣室)におりまして御座る』」(「狂言」『きかずざとう(聞かず座頭:不聞座頭)』:つまり、この「つんぼ」は聞こえないわけではない。聞こえが悪い)。