◎「つら(面)」

「つふら(壷ら)」。「つふ(壷)」(その項・6月25日)の情況のもの、の意。この容器は、陶製ですが、形状がふっくらとしている。つまり、ふっくらと丸みを帯びた状態のものを表現し、この語「つら(面)」は元来は人の頬のあたりを言ったようですが、後には顔面を意味する尊重感の乏しい表現になり、ものやことの表面(ときには、内実をともなわない表面だけ)を意味したりもする。「そとづら(外面)」「ばかづら(馬鹿づら)」などの場合、濁音化しますが、これは「つら」の前に無音化した認了の「の」が入っているということでしょう。

「大己貴神(おほあなむちのみこと)、卽(すなは)ち取(と)りて掌中(たなうら)に置(お)きて翫(もてあそ)びたまひしかば、跳(をど)りて其(そ)の頰(つら)を囓(く)ふ」(『日本書紀』:頬(ほほ)に噛みついた)。

「頬 ………和名豆良 一云保々 面旁目下也 玉篇云顴…和名豆良保禰 頬骨也」(『和名類聚鈔』)。

「『扨々きやうがつたつらじやなあ』『きやうがつた頬(つら)で御ざる』」(「狂言」『蚊相撲』:「きやうがち」は、強(キャウ)勝ち、であり、強そうな、ということか)。

「『あの子はモウ、何をいひ付てもらちのあかねへひきづりづらだヨウ』」(「洒落本」『傾城買四十八手』:この「づら」は、「『あの情知らずの杢助づらめ』」(「歌舞伎」『小袖曾我薊色縫』)のように、「つら(面)」が表面・上辺(うわべ)を意味し、杢助(人名)だと思っていたがそんなやつではない(信用などできない)、といった意味。「ひきづりづら」は、お引きづりの長い着物でしゃなりしゃなりと歩くような女だがそれは上辺だけでただ自堕落でなんの仕事もしない女、といったような意味)。

 

◎「つら(弦・列・蔓)」

「つる(蔓・弦)」「つれ(連れ)」などが、語尾がA音化し、そうした状況のもの、という表現がなされることがある。

「陸奥(みちのく)の安達太良(あだたら)真弓はじきおきて(波自伎於伎弖)せらしめきなば(西良思馬伎那婆)弦(つら)着(は)かめかも(都良波可馬可毛)」(万3437:東国(陸奥)の歌。方言的変異がある:これはわかりにくい歌なのですが、「はじきおきて」は、弾(はじ)きおきて、弾(はじ)いておいて、弾(はじ)いただけで(矢をはなたずに)。「せらしめきなば」は、長野などの方言に「する(為る)」を意味する「せる」があり、せるらしめきなば。「~らし」は後世の、~らしい、という意味ではない。「夏来(きた)るらし」(万28)、などの、心にわいた感嘆を表現するそれ。「めき」は、春めき、などのそれ。意味は、したような気分になって、のような意。それで「弦(つら)着(は)かめかも」-弦(つる)を装着したと言えるだろうか?。そして「つら」には面・顔を意味するそれがかかっていて、それで一人前にちゃんと顔があると言えるのか? ということ。つまり、あなたは弓をはじいているだけじゃないの、じれったいわねぇ、矢をうちなさいよ、という女の歌。一般に、この「せらし」は「反(そ)らし」の古代東国方言と言われ、歌意もそのように解されている。「あだたら」は山名)。

「(仏は)世ノ中ヲ誘(コシラ)ヘテ、御子ノ列(ツラ)ニ預(アヅ)ケ給ヒ、我(ア)ガ財ハ皆汝等ガ財ゾト宣(ノタマ)フ」(『東大寺諷誦文稿』)。

「初雁は恋しき人のつらなれや旅の空とぶ声の悲しき」(『源氏物語』)。

「芋のつら(蔓)」(方言)。