◎「つぶし(潰し)」(動詞)

「つぶれ(潰れ)」の他動表現。潰れた状態にすること。おなじような自動・他動の変化としては、「たふれ(倒れ)」・「たふし(倒し)」、「こはれ(毀れ)」・「こはし(毀し)」などがある。

「『御迎へに来む人をば、長き爪して眼(まなこ)をつかみ潰(つぶ)さん』」(『竹取物語』)。

「此名目、たとへば金銀にてうるはしくつくれる彫ものなどの、半物になりて用にたゝず、何にもつかはれぬを、いけものにはならず、つぶしせよとてうちつぶす故、これに比していふ也」(『色道大鏡』:溶解し金属塊にする)。

「胆をつぶす」。「身代(シンダイ)をつぶす」。「時間をつぶす」。「塗りつぶす」(ある色塗料などを塗り、その域を他の色塗料に使用されない状態にする)。その他。

 

◎「つぶれ(潰れ)」(動詞)

「つびほいれ(禿び穂入れ)」。「いれ(入れ)」は自動表現であり、何らかの状態になること。「いれ(入れ)」自体は他動表現ですが、ある状態を入れ、という表現で、そうした状態になる、という自動表現化した表現になっている。「ほ(穂)」は筆の穂。全体は、禿(つ)びた、摩耗し、すり減り、ほぼ無くなった筆の穂先のような状態になること。この語が、車輪が摩滅し使用に耐えないような状態になること、その他様々なもの、さらには人や機構、がそうした使用に耐えないような状態になることを意味するようになった(「酔ひつぶれ」「会社がつぶれ」)。物的に構成が破綻することも「つぶれ」と言いますが、それは、「つぶれ(潰れ)」の他動表現「つぶし(潰し)」が、ある形態で機能していた金属製品を溶解させ機能喪失させることを意味し、その意味の自動表現として「つぶれ(潰れ)」が生じ、「つぶれ(潰れ)」が自動的に物的な構成破綻が生じることを意味するようになった。たとえば、自動的にはあまり起こらない事態ですが、自己構成維持力の弱いものが高いところから落下し、地面衝突の衝撃により構成が物的に破壊され破綻する(たとえば、どういう原因からか、生卵が高い所から落下しその物的構成が破綻する)、あるいは、どのような方向からであれ、圧力を受け圧力により同じように破綻する、といったことです。

「弊 …ツヒエ……ツビタリ…ツフル」「鈋 …マロナリ ツフル」(『類聚名義抄』)。

「うみ柿の落ちけるが、この弓とりの法師が頂におちて、つぶれてさんざんに散りぬ」(『古今著聞集』)。

「胸つぶるるもの 競馬(くらべむま)見る。……」(『枕草子』)。

「胆(きも)がつぶれ」。「声がつぶれ」。「酔ひつぶれ」。「面子(メンツ)がつぶれ」。「面目がつぶれ」。その他。