◎「つふ(壺)」

「つふ(唾ふ)」。「つ(唾)」はその項(ようするに唾液のこと)。「ふ」は口をすぼめ力を込め息を吐く擬音。「つふ(唾ふ)」は、口をすぼめ「つ(唾):つば(唾)」を「ふ」(擬音)と吐いているようなもの、の意。人が唾を「ふ」と吐くわけではありません。これはある形体の焼き物の容器を言いますが、その容器が口をすぼめ唾を「ふ」と吐いている(吐きあげている)ように見えるということです。この容器は口がそのように小さくすぼんでいるのです。そして本体は頬を膨(ふく)らますように膨らんでいる。これはその後の「つぼ(壺)」ではないのですが、「つぼ(壺)」という言葉はこれから生まれる。

「錦織(にしこり-)壺が女(むすめ)石女(いしめ)……壺 此(これ)を都符と云ふ」(『日本書紀』)。

 

◎「つぶ(粒)」

「つべゐ(つ辺居)」。「べゐ」はE音I音の連音がU音になっている。「つ」は、一(ひと)つ、二(ふた)つ、などという、個数を、単位における全体の中における規模を、確認表現するそれ。「べ(辺)」は、海辺(うみべ)、野辺(のべ)、その他により、そのあたり、という、印象としてなにかに接近するものであることを表現する。「ゐ(居)」は、そうした有りのそれ、の意。すなわち、「つべゐ(つ辺居)→つぶ」は、一つ、二つ、とそれが独立的に数えられるそのあたりのもの、逆に言えば、もはやその独立的存在はなくなり、個別的に数えられることはなくなりそうなもの、という意味。個別性が失われそうなほど小さいのです。ただし、個別性が失われそうなのであって、失われてはいない。そんな小さな個体。実態は非常に小さな小塊ですが、世の中にそれのみがあるのではなく、同種の小塊が多数、さらには無数にある場合、それによりその個たる存在がなくなりそう(しかしなくなっていない)ものに言われる。塊の空間的形態は、真球にちかいものもありますが、それに限定されるわけではなく、不定形。無数にある他の粒と同じ形である必要もない。それが「つぶ」。「米粒(こめつぶ)」や「あはつぶ(粟粒)」のように、穀物にかんし言われることが多い。

「磷 …ツブ」(『類聚名義抄』:「磷」は「石礫也」ともされる字)。

「ゼズス寓民に譬を宣く。或人わが畠に蒔きける芥(カラシ)の粒を天の國に喩ゆる也. 去ば此粒は萬の種の中に第一小きといへ共…」(『バレト写本』)。