◎「つひえ(潰え)」(動詞)
「つひゆえ(終ゆ得)」。「つひ(終)」はすべてが理性的確定を経過していること(→「つひ(終)」の項・6月21日)。「ゆ(助)」は事象全体の成形効果、すなわち、事象・経験経過、があることを表現する(→「ゆ(助)」の項)。「え(得)」は帰属の自己認容(→「え(得)」の項)。「つひゆえ(終ゆ得)→つひえ」は、終(つひ)の経験経過を得(え)、ということですが、すべての理性的確定を経験経過していることの自己認容を表現する。理性的に確定したそれはもはや変動や変化はない。それはものやこととして終わったのです。その「つひゆる」ものやことはさまざまですが、生命力、体力、なにごとかを行う努力、使っている必要なものや資材、といったものが多い。体形や容貌といった外形的なことが言われる場合も、それにより、生命力や生活力がついえていることが象徴されたりする。活用語尾「え」はY音。終止形「つひゆ」。
「而(しか)るに(そうではあっても)、介冑(いくさ)の士(ひとども)、疲弊(つひ)ゆること無きにあらず」(『日本書紀』:体力的に疲弊した)。
「先に有りし妙園林 可愛の遊戲處 忽然(こつぜん)に皆枯れ悴(つひ)えて 見る者憂惱を生ず」(『金光明最勝王経』巻八王法正論第二十・平安初期点)。
「…侍従出で来たり。容貌など、衰へにけり。年ごろ(齢をかさね)いたうつひえたれど(豊かさはなくなったが)、なほものきよげによしあるさまして…」(『源氏物語』)。
「潰 ……ツイユ」(『色葉字類抄』:「潰(カイ)」は崩れたりつぶれたりすること)。
「都(かつ)て(まったく)益(ま)す所(ところ)無(な)くして、損(おと)り費(つひ)ゆること極(きはめ)て甚(はなはだ)し」(『日本書紀』:「常世(とこよ)の蟲(むし)」なるものを祀ることがはやり、財を失う者が多く現れたという話)。
◎「つひやし(費やし)」(動詞)
「つひえ(潰え)」の他動表現。潰(つひ)える状態にすること。
「その物に付きて、その物を費(つひや)しそこなふ物、数を知らずあり。身に蝨あり。家に鼠あり。国に賊あり。小人に財あり。君子に仁義あり。僧に法あり」(『徒然草』)。
「さしもあやふき京中の家をつくるとて、たからを費し、こころをなやます事はすぐれて、あぢきなくぞ侍る」(『方丈記』)。