◎「つはもの(兵・強者)」
「つはもの(唾物)」。手に唾(つば)をつけて握る物、の意。「つはもの」という言葉は、後には武者や強者も意味するようになりますが、原意は闘争道具・武器を意味する。一本の棒も、それで土を叩いて砕けば農具であり、戦いのために手に(滑り止めの)唾をつけて握ればそれは武器ということです。
「即チ四ノ仗(ツハモノ)ヲ執(ト)ル」(『法華経玄賛』平安初期点:「仗(ヂャウ)」は仗(つゑ)も武器も意味する。ようするに、手に握っている棒状のもの)。
「庫 附棚閣 …諸軍器在庫皆造棚 安置別異庫 豆波毛乃久良 棚閣 …和名多奈」(『和名類聚鈔』:「つはもののつかさ」という語もあり、これは兵のことや軍事をつかさどる役所。「つはものつくりのつかさ」は武器・兵器づくりをつかさどる役所)。
「今(いま)多(さは)に兵衆(つはもの)を動(うごか)して土蜘蛛(つちぐも)を討(う)たむ」(『日本書紀』:これは武器をもち戦う者、の意)。
「弁慶は兵(つはもの)、愚僧は弱者(よわもの)」(「浄瑠璃」『平仮名盛衰記』)。
◎「つばら(委)」
「つままら(端目ら)」。「つま(端)」は端(はし)へ向かう動態がいまあるもっとも端(はし)の域やそうした存在になるもの、動態凝縮感のある部分域→「つま(端)」の項。「まら(目ら)」は見る情況にあること。動態凝縮域の、もっとも端(はし)の、見る情況、とは、微細な点までくまなく見る情況にあることです。「つばらにも見つつ」「つばらかに示す」。「つばらつばらに」といった表現もある。
「味酒(うまさけ) 三輪(みわ)の山 あをによし 奈良の山の 山の際(ま)に い隠るまで 道の隈(くま) い積もるまでに つばらにも 見つつ行かむを しばしばも 見放(みさ)けむ山を 心なく 雲の 隠さふべしや」(万17)。
「…時となく 雲居雨降る 筑波嶺を さやに照らして いふかりし 国のまほらを つばらかに 示したまへば…」(万1753)。