◎「つばき(椿)」

「つやふはき(艶生葉着)」。「つゆわき」のような音(オン)を経、「つばき」になった。「つや(艶)」は光沢のあること。「ふ(生)」は発生・出現すること。そうした印象の葉(は)を全身に着たようなものであることが「つやふはき(艶生葉着)→つばき」。樹木性の植物の一種の名。葉の表面が蠟(ロウ)質の成分に覆われ、照り光る状態になっている。その印象による名。

「其(し)が下(した)に生(お)ひ立(だ)てる葉広(はびろ)斎(ゆつ)真(ま)椿(つばき:都婆岐)…」(『古事記』歌謡58)。

「…瑞(あやしき)鶏(とり)を貢(たてまつ)れり。其(そ)の冠(さか)、海石榴(つばき)の華(はな)の似(ごと)し」(『日本書紀』:「海石榴(つばき)」は現代では一般に「椿」と書く(※下記))。

※ 表記の「海石榴」は中国の書に「椿(チン)」の別名としてあるものですが、なぜ「石榴(ざくろ)」なのかというと、その実の見た目が椿(つばき)と柘榴(ざくろ)は似ているからであり、「石榴(ざくろ)」という表記は「安石(ペルシャ)」の「榴(木の瘤(こぶ))」(その実の印象)ということなのですが、「海」のそれ、とは、陸づたいに来たわけではなく、海から来たということであり、日本のということか。「つばき(椿)」と「ざくろ(柘榴)」はたしかに混乱しそうです。

「椿 …唐韻云椿…和名豆波木 木名也………漢語抄云海石榴 和名上同 本朝式等用之」(『和名類聚鈔』:日本では「海石榴」の方が正式な書き方だったらしい)。

ちなみに、「椿(チン)」の字に関しては、中国の古い書に「椿、櫄、杶」は皆同じとあり、「杶(チュン)」はセンダン科の落葉高木であり、どうも「椿」は元来は「つばき」ではないらしい。

 

◎「つばくみ(凸み)」(動詞)

「つはくみ」という語がありますが、これは「つはくみ(州八組み)」。「州八組み」とはどういうことかいうと、平仮名の「つ」は「州」の略体と思われる変体仮名であり、この変体仮名は波のように見える。片仮名の「ハ」は「八」の略体であり、この字は山をなしているように見える。ある地形がその「州(つ)」と「八(ハ・は)」が組まれた状態になっているとは、その地形に凹凸があり、なだらか平坦なものではなく、高くなったり低くなったりしているということ。

「つばくみ」という語もありますが、これは「つみはくみ(積み八組み)」。前記の意味の「ハ」が積み組まれていると言う意味で、ある部分が高くなったり飛び出たようになったりしている。

「世尊の齊は厚くして窳(クホ)みてもあらず凸(ツハクミテモ)あらず」(『弥勒上生経賛』平安初期点)。

「凸 …アカル …ツハクム」「凸 ……アガル ツバクム」(『類聚名義抄』:『類聚名義抄』では「透(トウ:透(す)く、透(とほ)る)」にも「ツハクム」の読みがある。これは「逶(イ:斜めに行く意)」の誤用が通用していたということか。「逶」にも「ツハクム」の読みがある)。

「沸浪一タヒ(ひとたび)透(ツハクム)テ高山に上(のぼ)るが如し」(『唐大和上東征伝』)。

「其さとにいそほ(イソップ)と云人ありけり、其ちたひ(時代)、えうらうぱ(ヨーロッパ)の國中に、かほどの見にくき人なし、その故は、頭はつねのかうべ二つかさ有、まなこの玉つはぐみ出(いで)て…」(「仮名草子」『伊曾保物語』)。