◎「つの(角)」
「とゐにを(鋭居に緒)」。「と(利・鋭)」は、基本意は効果的であることを表現しますが(→「と(利・鋭)」の項)、刀ならばそれはよく切れ、槍ならば抵抗なく刺さり、なにかが鋭利で尖っている印象であることも表現する→「利鎌(とかま)にさ渡る鵠(くび(くぐひ):白鳥」(『古事記』歌謡28:鋭い鋭角的隊列をなし空を飛んでいるということ)。「とゐ(鋭居)」は、そうした鋭角的印象にあるもの、ということ。「に」は助詞。「を(緒)」は「を」は紐状の長いものを意味する(→「を(緒)」の項)。すなわち、「とゐにを(鋭居に緒)→つの」は、鋭(するど)く鋭角的に尖っている長いもの、ということ。これが牛の頭部などに生える。
「猪(ゐのしし)鹿(かのしし)多(さは)にあり。其の戴(ささ)げたる角、枯樹(かれき)の末(えだ)に類(に)たり」(『日本書紀』)。
「角 ……豆乃 獣頭上出骨也 有枝曰觡…無枝曰角」(『和名類聚鈔』)。
◎「つのぐみ」(動詞)
「つのくくみ(角含み)」。「つの(角)」はその項。この語はなにかが鋭利で尖っている印象のものあることを表現するが、原意は、効果的な動態がそこに現れている→「つの(角)」の項。「くくみ(含み)」は、何かを、内的に、構成として、今までではない状態にすることを表現する。「つのくくみ(角含み)→つのぐみ」とは、効果的な動態・生態が内的に、構成として、今までではない状態で現れていること。つまり、内的に、その内部に、成長・発展が感じられる状態が現れている。これは葦(あし)の芽生えにかんし言われることが多い。
「みしまえ(三島江)やしも(霜)ゝまたひぬあしの葉につのくむほと(程)の春風そ吹」(『新古今和歌集』)。
◎「つのはず(角筈)」
「つのおはず(角負はず)」。「つのおふ(角負ふ)」(角が添えられたようになり保つ)は人が獣化することも意味し、隠語的に男性性器が勃起することも意味する。「つのおはず(角生はず)→つのはず」はそうしたことが起こらない努力にある人であり、在家のまま仏門に入った男を言う隠語のようなもの。ようなもの、とは、厳密には、知られぬようそれを言うための、隠語ではなく、言うことを避けた忌み言葉。動物の角(つの)で作った弓の筈(はず:弦(つる)を掛ける部分)も「つのはず」と言う。
「伊勢斎宮…………凡忌詞……………優婆塞稱角筈」(『延喜式』巻五 神祇五:「優婆塞(うばそく)」は、在家のまま仏道修行に励んでいる人(男)。語源はサンスクリット語。女は「優婆夷(うばい)」)。