昨日(6月12日・「つね(常)」の語源)の資料に「あしげ」という語があったので、それです。

この語は体表に現れている色や模様によるある種の馬の呼称ですが、「あしげ(葦毛)」。「あし(葦)」は水辺に生う草性の植物の一種ですが、ここでは、夏から秋にかけて穂が現れている状態のそれ、その穂、を言っている。その馬の体表は、色は、白を基調とし、淡く茶色系、赤茶色系の色が入り、淡い灰色や赤紫系の色に見えるものもあり、青系に見えないこともないという色であることもある。その色は体表すべてが統一的にそうなるわけではなく、不規則な淡い色の模様になったり、斑(まだら)になったり、中国語で「連銭」(貨幣を連ね並べたよう)と表現される模様が現れたりする。それらすべてが「あしげ」の馬なのです。つまり、全体が均一な茶色系や黒色系の馬以外はすべて「あしげ」の状態。その、白を基調とし、淡く茶色系、赤茶色系の色が入り、青系に見えないこともない色であることもあり、全体的に淡く不規則な模様の印象が野にある葦(あし)の穂原を思わせたということ。「葦花毛」「尾花葦毛」といった語もある。

この、体表の色・模様によってある種の馬を表現する「あしげ」にかんしては、『和名類聚鈔』に

「騅 菼附 毛詩注云騅 音錐 漢語抄云騅馬鼠毛也 蒼白雑毛馬也 爾雅注云菼騅 今案菼者蘆初生也 吐敢反 俗云葦毛是 青白如菼色也」 (簡単な読み:騅(スイ)。「菼(タン)」の語がつく。毛詩注に云う「騅」。音(オン)は「錐(スイ)」。漢語抄に云う「騅馬」。鼠毛也(ネズミ色(濃い灰色)の毛だ) 蒼白(ソウハク:青白い)雑毛の馬だ。爾雅注に云う「菼騅(タンスイ)」。今案ずるに、「菼」は蘆(あし)の初生(芽生えたばかりの若い頃)だ。音(オン)は吐敢反。俗に云う葦毛(あしげ)は是(これ)だ。菼の色の如く青白い)、

とある。「騅(スイ)」は中国の書に「馬蒼黑雜毛」や「馬蒼白雜毛」と書かれる字ですが、葦の芽はどちらかと言えば淡い赤紫ではないかという印象(つまり、「菼騅(タンスイ)」において「菼(タン)」の字は色を表現するために添えられているわけではないだろうという印象)を受けますが (中国の書に「菼草色如鵻(隼:はやぶさ)」という記述があり、「菼」は隼(はやぶさ)のように早い馬という意味で添えられ、楚の項羽の愛馬の名が「騅」だったそうですが、これもまるで馬に羽が生えているかのように、鳥のように早い馬、という意味であり、「菼騅」は「あしげ」は意味しない。しかし、その馬は、隼(はやぶさ)の体色や模様を思わせる毛色で、事実として「あしげ」であり、「騅(スイ)」が「馬蒼白雜毛」と説明される事態になったのでしょう)、この『和名類聚鈔』の記述により、「あしげ」は葦の芽の色の毛色の馬のことという語源説が一般的になっている。また、この記述が「あしげ」の馬を「あを」と呼ぶことの根拠にもなっている。しかし、「蒼(ソウ)」が草を意味し「蒼海」という語に青い海の印象があったりし、「騅(スイ)」が「馬蒼黑雜毛」や「馬蒼白雜毛」と書かれたとしても、中国に「菼騅(タンスイ)」という語があるので日本で葦毛の馬を「あを」とも言うようになったということは起こらないでしょう。「あしげ」を「あを」とも言うことにかんしては「あを(青(世))」の項。

 

つまり、「あしげ(葦毛)」は、葦の穂の印象による語であり、芽の印象による語ではないということです。