◎「つづらか」

「つづうつらか(星現らか)」。「つづ」は、「ゆふつづ(夕星)」(その項)の影響により、星を意味する。「うつ(現)」(その項)は明瞭・明晰であること。「らか」(「やか」の項)は、「なめらか」のそれのように、ある情況であることを表現する。「つづうつらか(星現らか)→つづらか」は、星がありありと現れているような印象であること。これは、目が、見開くように、星が光り広がるような状態になることを表現する。たとえば、驚愕すべき現実をまのあたりにしてそうなる。

「盱 ……憂也 張目之皃 目豆々良加尓須(めつづらかにす)」(『新撰字鏡』)。

「中納言 (藤原義懐(よしちか))や惟成(これしげ:藤原惟成) の弁など、花山(花山寺)に尋ね参りにけり。そこに、めもつづらかなる(驚愕したことに)、(花山天皇が)小法師にて、ついゐさせ給へるものか。あな悲しや…」(『栄花物語』:「ついゐ」は、突(つ)き居(ゐ)、の音便であり、(花山天皇が)その地を突いたかのように、しっかりと、たしかに(夢や幻ではなく)、法師姿で、そこに坐していた。「~ものか」は、そんなことあるものか…(いやあるのだ…)、ということ)。

 

◎「つづらをり(葛折)」

植物たる「つづら(葛)」にかんしてはその項(6月1日)。その葛(つづら)の細い蔓(つる)が他の蔓(つる)に巻きつきつつ伸びているその状態が左右交互に曲がりつつ進行しているように見えることによる表現が「つづらをり(葛折)」。左右交互に鋭角に、ジグザグに折れ曲がりつつ進行するのではなく、なだらかな曲線で左右交互に折れ曲がりつつ進行する。葛(つづら)の細い蔓(つる)が垂れ下がるからか、「をり(折り)」と「おり(降り)」の音の類似か、あるいは、高部や底部への登り降りは、直進せず、左右交互に折れ曲がりつつ進行することが多かったからか、この「つづらをり」という語は坂を表現する語になっている。

「近くて遠きもの…………鞍馬のつづらをりという道」(『枕草子』)。