「つくちふけゐ(着く路更け居)」。語尾はE音I音の連音がU音になっている。これからその路(みち)に着(つ)こうとしている、その路(みち)を歩み行こうとしているその路(みち)が夜が更(ふ)け行こうとしている。この路(みち)を行ったらどうなってしまうのだろうと思う。路(みち)の遥か彼方を見やりもする。行くのはやめようかとも思う。行かねばともおもう。どうしようかと思案する。しかし、思案するほど、ときは過ぎ、夜は更けていく…そんな心情を表現する。「つくつく」とも言う。古くは「つくづくと」という言い方をする。
「『………』など言ひ知らするを、げにと思すも(もっともだと思いつつも)、いと悲しくて、つくづくと泣きたまふ」(『源氏物語』:つくづくと泣く)。
「北条(北条四郎時政)もこれを聞いて、よに心くるしげに思ひ、涙おしのごひ、つくづくとぞ待つたりける」(『平家物語』:つくづくと待つ)。
「『若君(明石の姫君)の、さてつくづくとものしたまふを、後の世に人の言ひ伝へむ……』」(『源氏物語』:若君が未来がひらけるでもない、あてもないような状態で居ることを後の世に…。つくづくとものす(居る))。
「白峯の御墓に参りて、つくづくと見まゐらせ、昔の御事思ひ出し奉りて…」(『保元物語』:つくづくと見る)。
「寺の辰巳の隅に破(や)れたる蓑うち敷きて、木もえ拾はねば、火もえ焚かず、寺は荒(あば)れたれば、風もたまらず、雪も障(さは)らず、いとわりなきに、つくづくと臥(ふ)せり」(『古本説話集』「丹後国成合事」:つくづくと臥(ふ)せる)。
「つくつくは 物あんじながめたる皃歟(かほか)」(『かたこと』)。
「御顔に単衣(ひとへ)の御衣(おんぞ)の袖をおしあてて、たたせ給へるより(お立ちになったそのとき)、御涙のつくづくと漏り出でたるほど、もとのしづくやと哀(あはれ)におろかならず」(『栄花物語』:これは、ある人の、急死した親しい女性のもとへかけつけたその現場での情況を言っている。「もとのしづくや」は『新古今和歌集』にある「すえのつゆ(露)もとのしつく(雫)やよの中のをくれさきたつ(遅れ先立つ)ためしなるらん」を言っている。涙がつくづくと漏(もれ)る)。
「つくづくと、春のながめの寂(さみ)しきは、……しのぶに傳(つた)ふ、軒の玉水音すごく、独(ひとり)ながむる夕まぐれ…」(「謡曲」『羅生門』:形容詞「すごし」は、後世の「スゲー」のようなものではなく、身に浸みこんでいくような意味を表現する)。
「つくづくこれを案ずるに…」(『十訓抄』)。
「『私(わたし)は篠田さん、此頃ツクヅク人の世が厭(いや)になりました』」(『火の柱』木下尚江)。