◎「つぎねふ(枕詞)」
「つきききねふ(着き聞き音・寝生(二))」ということか。(二人が)そこへ着き、音(ね)が聞こえ、寝(ね)る…そんな草の生(お)ひのあるところ。この語は地名「やましろ(山背・山城)」の枕詞であり、『古事記』には「つぎねふや」という表現もある。この語は一般に、万3314の表記から、「ね」が、「をね(尾根・尾嶺)」「たかね(高嶺)」などのそれのように、山を意味し、連続している山の経過、という意味で考えられている。「やましろ(山背・山城)」は後世の京都市あたり一帯が中心地であろうけれど、たしかに、周囲は山に囲まれたような状態になってはいる。しかし、その平坦な地を、連続している山の経過、と表現するであろうか。ましてや、枕詞はその地を美しく表現したりするものであり、この表現に枕詞の特性はあるであろうか(「やましろ(山背・山城)」は周囲を山に囲まれ、それに守られている印象はあるが、この表現でそれは表現されるであろうか)。連続している山の経過は日本列島にはありきたりにある。万3314の表記は、これを歌った人はこの語をそのような意味で用い、歌意としてはその方が適切であるが、原意はそうではないのではないか。
「つぎねふ(都藝泥布) やましろ女(め)の 木鍬(こくは)持ち 打ちし大根(おほね)…」(『古事記』歌謡62)。
「つぎねふ(菟藝泥赴) やましろ河を 河(かは)上(のぼ)り…」(『日本書紀』歌謡53)。
「つぎねふ(次嶺経) やましろ路(ぢ)を 他夫(ひとづま)の 馬より行くに…」(万3314:つらい山路を他の人の夫は馬で行っているが、私の夫は徒歩で行っている、という歌)。
◎「つく(木菟)」
「つきえゐ(衝き枝居)」。「つけゐ」のような音(オン)を経、「つく」になっている。これはある種の鳥の名ですが、枝に衝(つ)き立てたように居るもの、ということ。別名「ふくろふ(梟)」(その項)。頭部に耳を思わせる羽毛のあるものは「みみづく(耳木菟)」。「つく(木菟)」が目を見開きただじっと立ち静止している心情状態を思わせる状態であることが「つくねん(木菟然)」(その項)。
「初(はじ)め、天皇(すめらみこと)生(あ)れます日(ひ)に、木菟(つく)、産殿(うぶとの)に入(とびい)れり」(『日本書紀』)。
「木菟 又云巧婦 豆久」(『新撰字鏡』)。
「木菟 ツク …ミミツク」(『類聚名義抄』)。
◎「つく(釻)」
「つけゐ(付け居)」。何かを付着させ(付け)固定させるもの(居(ゐ)の状態にするもの)。櫓の上部の小さな横木など。「つくめ(つく芽:付目)」は、「つく」たる芽のような突起物であり、「つくめを結ぶ」は、櫓(ロ)のその突起部分を舟に結び固定すること。「妹がりと我が行く道の川しあればつくめ(附目)結ぶと夜ぞ更けにける」(万1546:万4460にある「かぢつくめ(可治都久米)」のそれは別語)。弓の弦をかける部分やつがえた矢を安定させるためにその握りの部分につけた折釘状の金具も「つく」と言う。十手などについている折釘状の金具も言う。