以下、動詞「つかひ(使ひ)」にかんしてはその項(4月8日)。

 

〇「つかひ(使ひ)」の尊敬表現「つかはし」

・「つかひ」が派遣を意味しその尊敬表現

「乃(すなは)ち人(つかひ)を市邊押磐皇子のもとに使(つかはして)」(『日本書紀』)。

「勅旨 反云 大命(おほみこと) 戴(いただ)き持ちて もろこしの 遠き境に 遣(つか)はされ(都加播佐禮) 罷(まか)りいませ(お出かけになり)」(万894:(大君が)派遣なさることをされ。「れ」は受け身)。

「親しき女房、御乳母(めのと)などをつかはしつつ、ありさまを聞(きこ)し召す」(『源氏物語』)。

・「つかひ」が(人になにごとかをさせることも含め)利用・活用を意味しその尊敬表現

「諾(うべ)しかも 蘇我の子らを 大君の 使(つか)はすらしき(菟伽破須羅志枳)」(『日本書紀』)。

「朝(あした)には 召して使(つか)ひ 夕(ゆふべ)には 召して使(つか)ひ つかはしし(遣之) 舎人(とねり)の子らは」(万3326:この「つかはし」は、どこかへ行かせた(派遣した)という意味ではないでしょう)。

 

〇「つかひ(使ひ)」の使役型他動表現「つかはし」:路(ち)行(い)きを代(か)わらせることを、なにかを使うことを、させる場合(→「つかひ(使ひ)」の項)

人やものやことを使うことの使役表現ということなのですが、これは、人に、その人以外の他の人を使うことをさせる(Aに、Bを使うことをさせる)、という意味にもなりますが、ものやことの利用・活用という意味での「つかひ(使ひ)」をさせる、という意味にもなり、ものの利用・活用をさせることはその利用者を変動させることも意味し、ものを与える・呉れる、もってくる、もっていく、の意味にもなり、ことの利用・活用はそのことをおこなうことも意味し、人にどこかでそれをおこなわせること、そのために人を移動させること、人を送ること、も意味する。動態をしてそれを使うことをさせれば、その動態の結果を与えてやる(「それほど言うならやってつかはす(やってやるぞ)」)。

「岸に色深き藤の松に咲き懸かりたりけるを上皇叡覧ありて『あの花折りにつかはせ』 と仰せければ、大宮大納言・隆季卿承つて、左史生・中原康定が端舟に乗りて折節御前を漕ぎ通りけるを召して折りにつかはす」(『平家物語』:最初の「花折りにつかはせ」は「花を折る(そして持ってくる)ために人を行かせることをさせろ」。最後の「折りにつかはす」は「折るために人を移動させた、行かせた」)。

「弓射都可波須(ツカハス)事は本より正月の行事なり…」(『類聚国史』巻七十四・九月九日宣命:弓射をおこなう)。

「人の田を論ずるもの、うたへ(訴え)に負けて、ねたさに、『その田を刈りてとれ』とて、人をつかはしけるに…」(『徒然草』:人を送った)。

「あひしれりける人の まうてきて かへりにけるのちによみて花にさしてつかはしける」(『古今和歌集』:ことを、歌を、送り与えた)。

「おもしろきさくらををりて、ともたちのつかはしたりけれは」(『後撰和歌集』:ものを、桜を、ともだちが、送ってきた(ともだちに送られた))。

「有がたい事には、旦那様から、支度をして遣(つか)はさうから……、とおつしやいますが…」(「滑稽本」『浮世風呂』:ことを、支度を、つかうことをさせる→支度してやる)。ある動態の結果をつかうことをさせる→ある動態の結果を生じさせてやる。なにごとかをやってやる。「ゆるしてつかはす」。「書いてつかはす」。