◎「つかし(尽かし)」(動詞)

「つききらし(吐き切らし)」。「つき(吐き)」はただ体内から出す、この場合は、吐出するように意思や情動を現すこと(→「つき(突き・築き・吐き)」の項)。「きらし(切らし)」は「きれ(切れ)」の使役型他動表現ですが、「~きり」が限界までし終えることなどを表現する(「やりきった」)、そうした用い方の使役型他動表現として、無く、してしまった、という意味でも言われる(「薬をきらした」(薬がなくなってしまった))。「Aをつききらし(吐き切らし)→Aをつかし」は、Aを吐き、それさえもなくなってしまった、の意。「愛想をつかした」。「精をつかす」。

この語は一般に「つき(尽き)」の他動表現と言われますが、「あの人にはもう愛想をつかした」は、あの人にはもう愛想が尽きることをさせた、は意味しない。

 

◎「つかし(漬かし)」(動詞)

「つき(漬き)」の他動表現が「つけ(漬け)」。使役型他動表現が「つかし(漬かし)」。なにかを漬(つ)く(水に浸る)状態にすること。

「立山(たちやま)の雪し消(く)らしも(久良之毛)延槻(はひつき)の川の渡り瀬鐙(あぶみ)漬(つ)かすも(都加須毛)」(万4024:「延槻(はひつき)」は河の名。「消(く)らし」は、消(き)ゆらし。この、消ゆらし、の、らし、は、後世において、~らしい、と推測するそれではない。感嘆を表現するそれ(→「らし」の項。「夏来たるらし白栲(しろたへ)の…」(万28))。この場合は春の訪れを感じたよろこびです。鐙(あぶみ)をすっかり濡らしてしまった、と無念そうな言い方をしながら春のよろこびが表現される)。

 

◎「つかね(束ね)」(動詞)

「つか(束)」(4月3日)の動詞化。「つか(束)」の量でまとめること。意味発展的に、一つにまとめ束(たば)ねること。なにかをひとつにまとめてそこに置くことなども言う。「手をつかね」は手を束にすることであり、腕組みの状態になることですが、胸を張り威を示すようなものではなく、忠誠し服従すること、や、反抗の意思などないこと、を表現する。

「…か黒し髪を ま櫛持ち ここにかき垂れ 取り束(つか)ね 上げても巻きみ…」(3791:これは髪をまとめている。柴や縄などもまとめる。布団をたたみまとめて置いたりもする)。

「義貞已に鎌倉を定て、其威遠近に振ひしかば、東八箇国の大名・高家、手を束(つか)ね膝を不屈と云者なし」(『太平記』)。

「…の軍勢等三万余人、旗竿引そばめ引そばめ、膝を屈し手をつかねて、堂上庭前充満たれば…」(『太平記』:これは足羽の合戦に向かう新田義貞軍)。