「ていかすは(手生かす端)」。「てい」はE音とI音の連音がU音になっている。「いかす(生かす)」は動詞「いき(生き)」(元来は四段活用)の尊敬表現の連体形。「は(端)」は、部分、ですが、ここでは、部品、のような意。「ていかすは(手生かす端)」、手(て)がお生きになる部品、とはどういうことかというと、この、部品、は社会生態的な装置の生態部品とでもいうようなものであり、それによって或る主体が自分の手を動かし作業しているのと同じ効果がありつつ生態装置全体が作動し生きる。その社会生態的な装置の生態部品が「ていかすは(手生かす端)→つかさ」。これは仕える者なのですが、その「つかへる(仕へる)」ということ、それにより「つかさ」が成立する努力、は、手(て)に、ことのあり方に、命(いのち)を与えこれを維持することなわけですが、命が与えられるそれは自分の手(て)ではない。それは自分を「つかさ」たらしめている、その権威源たる、思念内容の手(て)です。仕えることは世を自分が仕えるそれに仕えさせることにより現実化する(自分に仕えさせるのではない)。その仕えることがある地域やある人の群を治めることであればそこでは「つかさ」は首長のような権威者の意にもなり、あることを治めていればそのことにかんし権威者にもなる。また、この語は基本的には人を意味しますが、ある人がある職務を専門的におこなえばその職名が「つかさ」とも言われ、ある職務を行う人がある施設で専住的にそれをおこなっていればその施設が「つかさ」と呼ばれたりもする。そうしたことを表現しつつ、歴史的に、「司、吏、官、君、宰、首」その他、さまざまな漢字が「つかさ」と読まれる。20世紀頃の語で言えば「官僚」。厳密に言えば「知事」も「つかさ」。

「『吾(わ)が兒(こ)の宮(みや)の首(つかさ)は、卽(すなはち)脚摩乳(あしなづち)・手摩乳(てなづち)なり』」」(『日本書紀』:これは、ヤマタノヲロチを退治した後のスサノヲノミコトの言葉。スサノヲとクシイナダヒメの間からオホアナムチ(大国主命)が生まれる(つまり、ここで言う「吾(わ)が兒(こ)」とはオホアナムチ(大国主命)。そのオホアナムチ(大国主命)において「つかさ(首)」となるのはアシナヅチ・テナヅチだという。アシナヅチ・テナヅチはクシイナダヒメの父母にあたる)。

「『…我(われ)は、親(みづか)ら大地官(おほつちつかさ)を治(しら)さむ』」(『日本書紀』:これはある人が神がかりして言った神の言葉)。

「是(こ)の日(ひ)に、群臣(まへつきみたち)及(およ)び百寮(つかさつかさ)を集(つど)へて…」(『日本書紀』)。

「天皇(すめらみこと)、………卽(すなは)ち(野見宿禰を)土部(はじ)の職(つかさ)に任(ま)けたまふ」(『日本書紀』:この「つかさ」は職務。これ以降、埋葬の埴輪づくりはすべてこの人の指示でおこなわれたということか)。

「八年の冬十月(ふゆかむなづき)に、百姓(おほみたから)言(まを)さく、是(こ)の時(とき)に、國中(くにのうち)、無事(ことな)くして、吏(つかさ)その其(そ)の官(つかさ)に稱(かな)ふ。海內(あめのした)仁(うつくしび)に歸(おもむ)き、民(おほみたから)其(そ)の業(わざ)を安(やす)みす、とまをす。是歲(ことし)、五穀(いつつのたなつもの)登衍(おひゆたか)にして、蠶麥(かひこむぎ)善(うるは)しく收(をさ)む。遠近(みやこひな)淸(す)み平(やはら)ぎて、戸口(おほみたから)滋(ますます)殖焉(うまは)る」(『日本書紀』:「吏(つかさ)その其(そ)の官(つかさ)に稱(かな)ふ」とは、人たる「つかさ」が、「つかさとは…」と想的に想う「つかさ」に合っている、一致している)。

「いにしへよ 今のをつづ(乎都頭)に 万調(よろづつき) 奉(まつ)るつかさ(都可佐)と 作りたる そのなりはひ(奈里波比)を…」(万4122:「をつづ(乎都頭)」は「をつつ」の項。「なりはひ(奈里波比)」はここでは、産物、や、成果。この「つかさ」はそこでは首長(をさ)なのだが、仕えるなにかに調(つき)を送る仕事をしている。「作りたる」と言っているが、自分で土を耕したり種をまいたりして作っているわけではない。それが干ばつで台無しになりそうだ、というのがこの歌。これは守(かみ)・大伴家持の歌。「守(かみ)」は、越中守(えっちゅうのかみ)ということ)。

「官(つかさ)にも許したまへり今夜(こよひ)のみ飲まむ酒かも(梅の花よ)散りこすなゆめ」(万1657:これは、お上(かみ)もお許しくださっている酒です、のような意味で言っている。原注によれば、そのような禁制や聴許のお達しがあったようです)。

「天地(あめつち)の 初めの時ゆ うつそみの 八十伴(やそともの)の男(を)は 大君(おほきみ)に まつろふ(動態が同動する)ものと 定まれる 官(つかさ)にしあれば 大君(おほきみ)の 命(みこと)かしこみ 夷放(ひなざか)る 国を治むと…」(万4214)。