◎「ちり(散り)」(動詞)

「ちひゐ(千ひ居)」の動詞化。「ち(千)」は多数であることを意味する。「ひ」は小(ちひ)ささや弱さを表現する→「ひ(小・弱)」の項。「ゐ(居)」は現実化している存在を意味する。「り」は情況の進行を表現する。「ちひゐり(千ひ居り)→ちり」は、多数の存在が現れる動態情況の進行を表現する。それがなんであり、或る一の存在にかんし多数の存在が現れる動態情況の進行が表現された場合、その一は多数の存在となる。そしてその多数は、多数化したその一と相対的に、それに対し「大・強」な多数、それが大・強になった多数、ではなく、「ひ」な、「小・弱」な多数、それが小・弱になった多数、です。すなわち、「ちひゐり(千小居り)→ちり」は、ある一の存在にかんしその一の、その一に対し小な、多数の存在が現れる動態情況の進行が表現され。その一は多数の、ときには無数の、小さな、ときには微細な、部分断片へと分散する。

「妹(いも)が見し楝(あふち)の花は散りぬべし我が泣く涙いまだ干なくに」(万798)。

「橘の香をなつかしみほととぎす花散る里をたづねてぞとふ」(『源氏物語』)。

「見ぐるしきことちるがわびしければ、御文はいみじう隠して…」(『枕草子』:人々へ散る。人々へ広がる)。

「気が散る」(気が一へ集中せず分散する)。

 

◎「ちり(塵)」

「ちりゐ(散り居)」。散ってあるもの、の意。「ちり(散り)」はその項。

「旗鼓(はたつづみ)相望(あひのぞ)み、埃塵(ちり)相接(あひつ)げり」『日本書紀』:これは、物部麁鹿火(あらかひ)軍と磐井軍が戦い、旗や鼓が挑みあうような状態になり戦塵が舞い上がり乱れた、ということ)。

「塵埃 ……揚土……和名知利」(『和名類聚鈔』)。

「うつくしきもの…………二つ三つばかりなるちごの、いそぎてはひ来る道に、いとちひさき塵(ちり)のありけるを目ざとく見つけて…」(『枕草子』)。

 

◎「ちらし(散らし)」(動詞)

「ちり(散り)」の他動表現。散る状態にすること。「花をちらす」と言った表現もあるが、「言ひちらす」(言語を拡散させる)と言った表現もある。

「…はろはろ(遥遥)に 鳴く霍公鳥(ほととぎす) 立ち潜(く)くと 羽触りに散らす(ちらす:知良須) 藤波の… 」(万4192)。

 

◎「ちらかし(散らかし)」(動詞)

「ちり(散り)」に、「おびやかし(脅かし)」その他にある、「かし」のついたもの。「かし」はその項参照(2021年2月24日)。「ちり(散り)」の動態とその結果を発生させること。「ごみをちらかす」(ごみを散った状態にする)といった表現もあるが、動態がなにかを散った状態にする無秩序乱雑なものであることも表現する→「食ひちらかす」「追ひちらかす」。