◎「ちょろし」(形ク)

「ちょろ」の形容詞表現。「ちょろ」は「ちょ」の項(3月21日)参照。動態(社会的影響も含めて)が小さく弱くほとんど影響のないものであることを表明する。

「霊仏霊宝さへのこらずやけたるに、此(この)ちよろいはさん(挟み)箱一つのこりたるは前代未聞のふしぎ」(「浮世草子」『好色万金丹』:物がちょろい)。

「此の古法師(ふるほふし)はそんなちよろい手をくふことにあらず」(「浮世草子」『傾城禁短気』:やり方がちょろい)。

 

◎「ちょろまかし」(動詞)

「ちょろまはかし(ちょろ舞はかし)」。「ちょろ」は動態が小さく弱いものであることを表現する(→「ちょ」の項)。「まはかし(舞はかし)」は、動詞「まひ(舞ひ)」に「脅(おびや)かし」その他の「~かし」。舞ふ動態をわきあがらせること。「ちょろまはかし(ちょろ舞はかし)→ちょろまかし」はそれを小さな動態で、さほど印象の残らない状態で、おこなう。これは、舞はして正体やそれがどうなっているのかを分からなくする→ことをごまかす、ものをぬすむ、こっそりことをすすめる、といった意味になる。どれも、それほど重大なことをするわけではなく、少額の金をこっそり自分のものにしたり、小心な印象でこそこそとなにかをしたりする。

「ちよろまかすと言ふ時花(はやり)言葉も是をかし。西南二つの色所より、役者末社の云ひ出して、一座の興にも成るぞかし。罪にならざる当座の偽をまぎらかすと言へる替詞と聞えたり」(「浮世草子」『好色盛衰記』(1688年):「ちょろまかし」はこの頃の流行(はや)り言葉らしい)。

「されどもむかし残りてさもしき心にて紙一枚、ちよろまかすといふ事なし」(「浮世草子」『西鶴置土産』(1692・3年))。

「始めてとはいはるれど、今の分(わけ)ある様子では、下地(したぢ)から懇(ねんごろ)で、我々には始めた分(ぶん)にしておけなどと、此方(こちら)をちよろまかすのではないか…」(「浮世草子」『傾城禁短気』(1711年))。

「其(その)女の親父(おやぢ)が見つけて腹をたて、ヤイこの野郎め。人の内へ断(ことはり)なしに牛込(うしごみ)やアがつて(押し込みやがって)。娘をちよろまかさうとか。ソリヤア赤坂(あかさか)ベイ(あかすかべい)だはへ、といふと…」(「滑稽本」『東海道中膝栗毛』(1802-14年))。