◎「ちゃくちゃくと」

「チャクチャクと(辵辵と)」。「辵(チャク)」は事態の進行を表現する。これが略されると漢字部首の「辶、辶」(しんにょう)になる。「しんにょう」は「之繞(シネウ)」。「之」は『説文』に「出也」とされるような字。「繞(ネウ)」は繞(まと)ふことであり、字に繞(まと)ふようについている部首だから。事態が効率よく効果的に進むことを表現しますが、「ちゃくと」という表現もある。

「いりかはりてはつゝみをもやていていと打てとうはうかへりなとにてちやくちやくとしてさと入也(入り替はりては鼓をも『や、ていてい』と打ちて、とんぼ返りなどにてちゃくちゃくとして、さと入るなり)」(『世子六十以後申楽談儀』)。

「ちゃくちゃくと準備をすすめる」。

 

◎「ちゃち」

「ちゃはあっち(茶はあっち)」。「あっち」は「あちら」「こちら」などという「あち」の強意。特定性・個別性のない方向性を表現する(「まだそこにおるか。あつちへうせおれ」(「狂言」『すゑひろがり』大蔵虎清・正保二(1645)年の署名のあるもの)。「ちゃ(茶)」はその項(3月14日)。この語は人をばかにしたようにいい加減にあしらう、という意味があり、「これは問題にならない茶だ。どこかへいってろ(消えてしまえ)」という扱いを起こさせるものやことが「ちゃはあっち(茶はあっち)→ちゃち」。

「扨(さて)品川じや。これは専(もつぱ)らよし原をまねてみれども、物ごとちやちにて、㐧一女郎の品(ぴん)がいやしひ」(『十八大通百手枕 傾城買指南所』: 「ぴん」は、「ひん」ではなく、原文はあきらかに「ぴん」になっている)。

 

◎「ちみどろ(血みどろ)」

「ちみちどろ(血満ちどろ)」。「どろ」は持続感(粘着感)のある溶解状態を表現する擬態→「とろ」の項。血が満ち、どろりと溶け落ちそうな状態であることを表現する。「ちみどろちんがい」という表現もある。「ちんがい」は「ちにイカイ(血に異界)」でしょう。血により通常とは全く異なる異様な世界のものになっていることを表現する。

「刀を抜きて、おのれがまらを切るよしをして、懐に持ちたる亀の首を投げ出だしたりけり。血みどろなる物の三・四寸ばかりなれば、その物にたがはざりけり」(『古今著聞集』『古今著聞集』巻十六 興言利口 「あるなま蔵人の妻の…」)。

「めはな(目鼻)ちみどろちんがいに」(「浄瑠璃」『生玉心中』)。