◎「ちび(禿び)」(動詞)

「ちひび(小び)」。「び」は「宮び」その他のそれのように、何かの状態になることを表現する。「ちひ」は「ちひさし(小さし)」のそれですが(→「ちひさ(小)」の項・下記)、ここでは形容詞の語幹のように働いている。動詞「ちび(禿び)」は、擦り減ったりして収縮するように小さくなること。連用形名詞化の「ちび(禿)」は小さいもの。幼年者への遠慮のない言い方にもなる。

「又歯禿(ちび)て僅(わづか)に残れる杉の屐(あしだ)あり。是(これ)は上人当山より毎日比叡山へ御入堂の時、海道三十五里の間を一時が内に歩ませ給し屐(あしだ)也」(『太平記』)。

 

◎「ちびり(禿り)」(動詞)

「ちびいり(禿び入り)」。動詞「ちび(禿び)」はその項。「~いり(~入り)」はまったくその動態になること(→「驚きいり」)。「ちびいり(禿び入り)→ちびり」は小さくなることであり、動態がそう表現された場合、少しづつなにかをする。大小便を少しもらしたり、酒を「ちびり、ちびり」と飲んだりする。

「年にはなつても嘴(くちばし)の、黄ばみはとれぬ鈍才に、筆は禿(ちび)つて動かぬを…」(「人情本」『花筐(はながたみ)』:筆の動態がちびっている)。

 

◎「ちひさ(小)」

語尾の「さ」は情況的に何かを指し示す。「ちひ」は「いちひ」。「い」の無音化。「いち」は進行感を表現する「い」による、「いたり(至り)」その他になる、動詞「いち」の連用形。「ひ」はH音とのI音の感覚的(求心的な)進行感により小ささや弱さを表現する(「ひ弱(よわ)」「(鳥の)ひな(雛)」など)。つまり「いちひ」は、進行している小ささや弱さを表現する。「さ」はそうした情況にあること・ものを表現する。これを語幹とするク活用形容詞は「ちひさし(小さし)」。「ちひさやか(小さやか)」、「ちひさわらは(小童)」といった語もある。

「『アイ』と、につこりと笑ひちいさなる声にて…」(「人情本」『春色恵の花』)。

 

◎「ちひさし(小さし)」(形ク)

「ちひさ(小)」の形容詞表現。であることの表明。「ちひさ(小)」はその項。空間占有域規模(「ちひさい家」)、できごと・ものごとの規模やその影響や作用の程度(「ちひさい傷」「ちひさい音」)、年齢(「ちひさい子(幼年者)」)、人間性のものごとへの認容能力(「人間がちひさい」(身長が低いといった意味ではない))、貨幣額(「ちひさい金(かね):細(こま)かいかね、とも言う」)、人の動態(「あいつはあの人の前へでるとちひさくなる」)といったさまざまなことにかんし言う。

「天皇(すめらみこと)寢疾不預(みやまひ)したまふ。詔(みことのり)して、賞罰支度(まつりごとおきて)、事無巨細(ことおほきなるちひさきとなく)並(ならび)に皇太子(ひつぎのみこ)に付(ゆだ)ねたまふ」(『日本書紀』)。

「うつくしきもの…………葵(あふひ)のいとちひさき。なにもなにも、ちひさきものは、みなうつくし」(『枕草子』:「うつくし」は、後世のような、視覚印象に傾き、目が覚め我を忘れるような思いを表現するものではなく、現実にありありと見、起こる情感の湧起に胸がつまるような感銘を表現する(それが「うつくし」の原意。たとえば「うつくし妻(づま)」と言った場合、後世のような意味で、美人、と言っているわけではない)→「うつくし(愛し・美し)」の項)。

「何故(なんがゆゑ)にかかゝる譫言(たはこと)を吐(は)く。吁(あゝ)小(ちひ)さいかな」(『浮世床』:人間性がちひさい)。