◎「ちち(父)」

「ちつゐ(「父」つ居)→ちち」→「ち(父)」の項(2月23日)。

「奥床(おくどこ)に母は睡(ね)たり外床(とどこ)に父は寝たり」(万3312)。

「俗云父 和名知ゝ」(『和名類聚鈔』)。

この語は「てて」や「とと」に変化する。「ちち」は古く「てぃてぃ」「てぃとぅ」「とぅとぅ」のような発音がなされていたのでしょう。「とと」は元来は幼児語らしい(下記)。「とと」はさらに「ととさま」、「ととさん」、「とおさん」、「おとうさま」、「おとうさん」、さらには「とーちゃん」といった語になっていく。

「琴の手、母にも勝り、母はてての手にも勝りて」(『宇津保物語』)。

「とと(父)よかか(母)よと朝夕にいふ」(「俳諧」『犬子集(狗猧集)』)。

「Toto(トト). Pay(父親). He palaura de q vsao os mininos(子供の使う言葉)」(『日葡辞書』)。

 

◎「ぢぢ(祖父・老男・爺)」

「おぢちち(祖父・老男父)」。「おぢ(祖父・老男)」は父や母の父親や、年老いた男を意味する→「おぢ(祖父・老男)」の項(下記)。「おぢちち(祖父・老男父)」は、祖父・老男(おぢ)たる父、ということであり、正に年をとった父と言い得る人、の意であり、「おぢ(祖父・老男)」を丁寧に言ったもの。当初は「おぢぢ」で、それが「ぢぢ」に「お(御)」が付された表現のように受け取られ「ぢぢ」や「おぢいさん」その他の表現が生まれたものでしょう。罵る場合は「ぢぢぃ(爺)」と言いますが、「ぢぢ」自体は蔑称ではない。

念のために言えば、「おぢ(祖父・老男)」(その項)、「をぢ(小父・伯父・叔父)」(その項)、「をぢ (老人)」(その項)は別語。

「祖父 ヂヂ」「耆老 ヂヂ」(『書言字考節用集』)。

◎「おぢ(祖父・老男)」

「おほみちち(大御父)」。「ちち(父)」を尊称化したもの。これが「おほぢ(祖父)」になり「おぢ」になった。「おほぢ(祖父)」という言葉もある。父や母の父親を言う。転じて年老いた男も言う。「おぢいさん」は「おぢぢさま」であり、この「おぢ(祖父)」とは別語→「ぢぢ(爺)」の項。また、この言葉は「をぢ(伯父・叔父)」とは異なる。