◎「ちぎ(千木)」
「ちぎ(路木)」。方向感・目的感をもった進行を表現する木。神社、社(やしろ)屋根の両端に、屋根の流れがそのまま伸びた方向で(つまり屋根が交差してそのまま伸びる方向で)上へ突き出すように出ている板状の棒とでもいうような設置構造物をいう。環境に霊的エネルギーのようなものがあり、その通路、伝導路、伝導装置のようなもの。それが「ちぎ(路木)」。その霊的エネルギーのようなものは入るだけで出てはいかない。「ちぎ(千木)」は「ひぎ(氷木)」とも言う。「ひぎ」は、「ひいぎ(ひい木)」。「い」は「いり(入り)」や「い(射)」になっている「い」であり、進行感を表現する。「ひ」は、動的な進行的感応を表現することが基本であり、「日(ひ)」でもあるのだが、「たましひ(魂)」や「まがつひ(禍つひ)」などのように、霊的作用力のようなもの、環境的な霊的エネルギーのようなものを表現する。霊的「日(ひ)」とでもいうようなもの。世界全体が霊なる、聖なる、日に満ちているような状態。その「ひ」の伝導路が「ひぎ」。
「座摩(ゐかすり)の御巫(みかむなぎ)の辭(こと)竟(を)へまつる…………皇神(すめかみ)の敷(し)きます下(した)つ磐根(いはね)に宮柱(みやはしら)太知(ふとし)り立(た)て高天(たかま)の原(はら)に千木(ちぎ)高(たか)知(し)りて皇御孫(すめみま)の命(みこと)瑞(みづ)の御舎(みあらか)を仕(つか)へまつりて…」(『祝詞』「祈年祭」(『延喜式』八巻):「ゐかすり」はその項)。
◎「ちぎり(契り)」(動詞)
「ちぎ(千木)」(その項)の動詞化。千木の印象のあることをすること、そうなっている何か。交差感のある千木の印象が意思内容の交差、すなわち約束の印象を生じさせ、また、それが神社に見られることからそこに神的な印象や歴史性や伝統性の印象が生じる。その約束、ある意思内容への双方同意、が神的なものとなる。男と女が、二人が一体であることを誓いあうような意で言われ、性行為をおこなうことの婉曲的な表現になったりもする。
「而(しか)るに長女(えひめ)期(ちぎ)りし夜(よ)族(やから)に偸(ぬす)まれぬ」(『日本書紀』:「期(ちぎ)りし夜(よ)」は、約束の夜、ということでしょう)。
「行く末かけて契(ちぎ)り頼めたまひし人びと集ひ住むべきさまに」(『源氏物語』:深い信頼関係で結ばれあっている人びと)。
「嵯峨野の御堂の念仏など待ち出でて、月に二度ばかりの御契(ちぎ)りなめり」(『源氏物語』:この「御契(ちぎ)り」は、男と女が会う、ということ)。
「男、女をば言はじ、女どちも、契(ちぎ)りふかくてかたらふ人の、末までなかよき人、かたし」(『枕草子』:女同士でも、「契(ちぎ)りふかくてかたらふ人」でも行く末永く仲のよい人はなかなかいないそうである)。
「あな無慚や、はや討たれにけり。いかにもならば、一所でいかにもならんと日ごろはさしも契りしものを。所々に臥さん事こそ悲しけれ」(『平家物語』)。