◎「たり(足り)」(動詞)

「とをはり(程を終はり)」。「と(程)」(程度を意味する)、「をへ(終へ)」「をはり(終はり)」はその項参照。「とをはり(程終はり)→たり」は、動態の強度(その程度)が、ある動態をその動態たらしめる強度が、すべて経過すること。漢字表記に関し、中国語の「足(ソク・ズゥ)」に「たり(足り)」の意はあるのですが、なぜこの字が用いられるのかは、借用字とも言われ、漢字学者においてもよくわかっていないようです(たとえば、「満(み)ちる足(あし)、足を満たす」と書いてなぜ「満足(マンゾク:満(み)ち足(た)り)」という意味になるのかわかっていないということ(「満足」という中国語はある。「足食」(『論語』)は食べ物が十分にあることを意味する))。

この語は後に(江戸時代ごろから。とくに江戸で)終止形、「たる」ではなく、「たりる」とも言われるようになる。否定は「たらず」とも「たりず」とも言う。これは連用形「たり」に「ゐ(居)」が入り程度が果てたことの現実性が強調されるということでしょう。

「仏造る眞朱(まそほ)足(た)らずは(不足者)水たまる池田の朝臣(あそ)が鼻の上(へ)を掘れ」(万3841:これは戯歌)。

「… 望月の 満(た)れる面(おも)わに 花のごと 笑みて立てれば …」(万1807)。

「たをやぎたるけはひ、親王(みこ:皇女)たちといはむにも足りぬべし」(『源氏物語』)。

 

◎「たし(足し)」(動詞)

「たり(足り)」の他動表現。変化としては、「かり(借り)自:かし(貸し)他」、「なり(成り)自:なし(為し)他」のような変化。「たり(足り)」になっていない場合「たり(足り)」にすること。不足を補う。「たり(足り)」はその項参照。

「則(すなは)ち馬・兵(つはもの)、幷(あわせ)て當身(みみ)の裝束(よそひ)の物(もの)、務(つとめ)て具(つぶさ)に儲(そな)へ足(た)せ」(『日本書紀』:不足を補い完備せよ)。

「宿元の用事も足さずに…」(『浮世風呂』:宿元の用になることもなにもせずに)。

 

◎「たり(人)」

人の数を表現する数詞の「たり」。「~とあるゐ(と在る居)」。~と、思念的確認され存在している存在。存在が、それも、「ゐ(居)」と表現される人の存在が、「~」と在ることが表現される。「ゐ(居)」は生態的存在の在りを現し、それによりそれが人であることは表現される。「~」で表現されるのは数規模である。数規模の表現とはたとえば「ふた(二)」、「み(三)」、「よ(四)」…。「ふた(二)」なら、「ふたとあるゐ→ふたたり→(「た」が一音落ち)ふたり(二人)」。「み(三)」なら、「みとあるゐ→みたり(三人)」。「ひとり(一人)」にかんしてはその項。