◎「たゆた」
語頭の「た」は「たとおし(た遠し)」などのそれ→「た」の項。「ゆた」は対象の存在の不安定さ・動揺を表現する場合と、自分の環境との緊張のなさ・余裕・弛緩を表現する場合があるが(→「ゆた(揺・寛)」の項)、この場合は動揺・不安定さ。つまり「たゆた」はすべてが動揺し不安定であり定まらない。「ゆたにたゆたに」と言ったりする。この動詞化「たゆたひ(揺蕩ひ)」がある(余裕・ゆとり、という意味による「たゆたひ(寛ひ)」という動詞もある)。
「我が情(こころ)ゆたにたゆたに(湯谷絶谷)浮蓴(うきぬなは)辺(へ)にも沖にも寄りかつましじ」(万1352:「ましじ」は「まじ(助動)」の項)。
◎「たゆたひ(揺蕩ひ・寛ひ)」(動詞)
「たゆた」の動詞化。「たゆた」はその項。「ゆた」が動揺・不安定さを意味する場合は「たゆたひ」はただ不安定に漂う。それが余裕・ゆとり・寛ぎを表現する場合はゆとりをもってゆったりと寛(くつろ)ぐ。
「大海(おほうみ)に島もあらなくに海原のたゆたふ(絶塔)波に立てる白雲」(万1089)。
「大船の泊つる泊りのたゆたひに(絶多日二)物思ひ痩せぬ人の子故に」(万122)。
「少弐、任果てて (都へ)上りなどするに、遥けきほどに(都は遠くもあり)、 ことなる勢ひなき人は(とくに社会的な権勢や財もない人は)、たゆたひつつ、すがすがしく(すぐにそのまま)も出で立たぬほどに…」(『源氏物語』)。
「是(これ)に因(よ)りて百姓(おほみたから)富(と)み寛(たゆた)ひて天下(あめのした)太平(たひらか)なり」(『日本書紀』:ゆとりをもってゆったりと寛(くつろ)ぎ)。