◎「たもち(保ち)」(動詞)
「たみもち(発生み持ち)」。「たみ(発生み)」は「たみ(発生み)」(1月17日)や「たまひ(給ひ・賜ひ)」の項参照。意味は、発生すること。「たみもち(発生み持ち)→たもち」は、発生し維持する、ということですが、「AがBをたもち」と言った場合、AはBをただ客観的対象として維持するのではなく、Aから発生しているようにそれを維持する。
「百濟(くだら)從(よ)り來(まうけ)る鹿深臣(かふかのおみ) 名字(な)を闕(もら)せり 彌勒(みろく)の石像(いしのみかた)一軀(ひとはしら)有(たも)てり、佐伯連(さへきのむらじ) 名字(な)を闕(もら)せり 佛像(ほとけのみかた)一軀(ひとはしら)有(たも)てり」(『日本書紀』:「來(まうけ)る」は、参(まゐ)り来(き)→まうき、に助動詞「り」がついたものの連体形)。
「夫(そ)れ出家(いへで)せる者(ひと)は頓(ひたふる)に歸三寶(さむぼう)に歸(よ)りて、具(みな)戒法(いむことののり)を懷(たも)つ。何(なに)ぞ懺(く)い忌(い)むこと無(な)くして輙(たやす)く惡逆(あくぎやく)なることを犯(をか)すべし」(『日本書紀』)。
「好(よ)き子孫(うみのこ)は、足(あ)くまでに大業(おほきなるつぎ)を負荷(たも)つに堪(た)へたり」(『日本書紀』)。
「『…(私は)さきの世の契(ちぎ)りつたなくてこそ、かう口惜(くちを)しき山賤(やまがつ)となりはべりけめ、親(おや)、大臣の位を保ちたまへりき…』(」(『源氏物語』)。
「王宮(わうくう)、善根長く絶えてなかりけり。(チヤウシという人物は)これ(善根)を買ひ取らんと思ひて、たもつところの(王の)財宝を、かの国の卑人どもを集めて、ことごとく施し、手を空しくして帰りぬ」(『曽我物語』)。
◎「たもと(袂)」
「たもてを(手持て緒)」。「た(手)」は「て(手)」のA音化・情況化であり、それが手(て)の情況にあるなにものかであることを意味する。「もて(持て)」は「もち(持ち)」の使役型他動表現→「片思ひを馬にふつまに負ほせ持て(於保世母天)越辺に遣らば人かたはむかも」(万4081)。「を(緒)」は紐状の長いものを意味する。すなわち、「たもてを(手持て緒)→たもと」は、手の持たせる長いもの(着物の手の部分の持たせる長い部分)、ということなのですが、どういうことかというと、着物の、腕を覆う部分が手を横へ伸ばすと下へ垂れるような状態で長くなっている。着物のこの部分が「たもと」。なぜそれが「もたせ(持たせ)」なのかというと、ここになにかを入れて持たせる(その着物は自分が着ているわけであるから、自分が持つ)ことができる。すなわち、服に備えつけられた袋、あるいはポケット、のような役割をはたす。
「…娘子(をとめ)らが 娘子(をとめ)さびすと 唐玉(からたま)を 袂(たもと:多母等)に纏(ま)かし…」(万804)。
「うれしきを なににつつまむ唐衣(からころも) たもとゆたかに たて(裁て)といはましを」(『古今和歌集』)。