「ためするい(発生め為るい)」。「ためすり」のような音を経つつ語尾のR音は退行化しつつ「ためし」になった。つまり、発生起源は名詞。「ため(発生め)」は「たみ(発生み)」の自動表現。それにかんしては「たみ(発生み)」(1月17日)や「たまひ(給ひ・賜ひ)」(1月10日)の項参照。「ため(発生め)」は発生を表現する。事象や経験経過の発生です。「する(為る)」は動詞「し(為)」の連体形。語尾の「い」は代名詞のようなそれ→「い」の項(2019年10月8日)。「ためするい(発生め為るい)→ためし」は、発生するそれ、のような意になる。なにごとか(A)があり、それによりなにごとか(B)が起こり、そのBが「それ」として、「ためするい(発生め為るい)→ためし」として、客観的に存在化する。その「発生(た)め」たる事象が、経験経過が、客観的に存在化する。その場合、その「B」は、こういうことが起こる、こういうことがある、という「例(レイ)」という意味にもなる。また、それがあることは「A」があることの「証拠・根拠・本(もと)」という意味にもなる。漢字表記は「例、様(結果として現れる様子。一般的かたち→見本→例)、験(結果を現す効果)、本(ある事象を現すもと)」といった書き方をする。

この語は動詞化し、それは、ある経験経過(A)をしある経験経過(B)が起こるか(それが現れるか)、あるいは、どのようなことが起こるかは未知だが、どのようなことが起こるか、あるいは、起こっているか、経験経過(A)を意図的におこなうことを表現する。つまり、動詞「ためし(試し)」は「ためするい(発生め為るい)→ためし」を現す努力をするわけです。

「卜書(うらのふみ)、暦本(こよみのためし)、種種(くさぐさ)の薬…」(『日本書紀』:「暦本(こよみのためし)」には、一巡の年(とし)のいつ頃どういう経験経過たる事象が現れるか・どういう発生(た)めする「い」が現れるか、その経験経過することが書かれている。それが暦(こよみ:いつ頃かを読んだ(対象の総意を得る努力をした)その読み)の、本(ためし)・発生(た)めする「い」(それ))。

「常(つね)の例(ためし)によりて、廿年(はたとせ)に一遍(ひとたび)、大宮新たに仕へまつりて…」(「祝詞」『伊勢大神宮 遷奉大神宮祝詞』:その発生(た)めする「い」は恒(つね)であり、廿年(はたとせ)に一度)。

「始(ハジメ)テ婦女ノ衣服ノ定(サダ)マル様(タメシ)ヲ制(タダ)ス」(『続日本紀』:衣服の、身分や季節に応じ定まる発生(た)めする・現実として現れる・「い」(それ)たるあり方を制(ただ)した)。

「いにしへに ありきあらずはしらねども ちとせのためし 君にはじめむ」(『古今和歌集』:千歳(ちとせ)の壽(いのち)という発生(た)めする「い」が君から始まる。君は千歳(ちとせ)の壽(いのち)の例になり人はそうなりうるその証拠となる)。

「模 …ウツス タメシ」「㨾 ……タメシ」「本 …モト…タメシ」(『類聚名義抄』:英語による漢字の意味説明では「模(モ・ボ) model, standard, pattern; copy」、「㨾(ヤウ) a type; a model; a mode; a style」、「様(ヤウ) shape, form, pattern, style」、「本(ホン) root, origin, source; basis」)。

「天下(あめのした)の人のしなたりきやととはんためしにもせよかしとおぼゆるも」(『蜻蛉日記』:私は世の人並みの品(しな)は足りたかと問うその答えにもしようとも思うが…)。

「上達部、上人(うへびと)なども、あいなく目をそばめつゝ、『いとまばゆき人の御おぼえなり。唐土(もろこし)にも、かゝる事の起こりにこそ、世も乱れ、悪しかりけれ』と、やうやう天(あめ)の下(した)にもあぢきなう、人のもてなやみぐさになりて、楊貴妃の例(ためし)も引き出でつべうなりゆくに…」(『源氏物語』)」。

「人のそしりをもえ憚(はばか)らせたまはず、世のためしにもなりぬべき御もてなしなり」(『源氏物語』:ここに現れる帝の行状が「世のためし」になるとは、それが世のあり方になってしまう、ということでしょう)。

「君が代の長きためしにあやめ草千尋に餘る根をぞひきつる」「歸らせ給ふとて、左の(あやめ草の)根の中に殊に長きを、『ためしにも』とて持たせ給へり」(『是中納言物語』:あやめ草の根が代(よ)が長いことを保障するものになる)。

「椎(しい)の木。常磐木はいづれもあるを、それしも葉がへせぬためしに言はれたるもをかし」(『枕草子』:なぜか、椎が、落葉しない樹を現す樹として言われている)。

「或時少しの事によりて一人を恥ぢがましく悪口したりけるを、本意なく思ひつめて、便宜をうかがひて、太刀を抜いて走りかかりけるを、少しもさわがずしてうちわらひて、これは何ごとぞといへば、一日悪口したりしためしたてんずる(立てんずる)ぞかし、と云ひけるを…」(『沙石集』:「(ためしを)立てんずる」は、(例を)現すのだ、のような言いかたであるが、ようするに、思い知らせてやる、ということでしょう)。

「Tamexi(タメシ).  Prova(証拠)…experiencia(経験). ¶ Tamexini fiqu(タメシニ ヒク). Trazer,ou alegar por prova,ou custume antiguo(証拠や古い慣習を持ちだす、主張する)」(『日葡辞書』:その行為の正しさを言うために古い「ためし」を主張したりするわけです)。

「壹(一)歩の田の稲を刈 年の豊凶を様(タメ)すをツイ法・歩刈・坪刈・坪附・目タメシ刈などとも云」(『地方(ぢかた)要集録』:一部を刈り(上記のBをし)、どのような豊凶(A)が起こっているか、知る努力をする)。

「修行といふはいかほどの大事やらん、ためいて(試して)みん、とて…」(『平家物語』:この「ためい(ためし)」は動詞)。