◎「たみ(民)」

「とあみゐ(~と編み居)」。「と」は思念的になにかを確認する助詞の「と」。動詞「あみ(編み)」は全体を編成すること。「とあみゐ(~と編み居)→たみ」は、~と全体編成し居る者、の意。どういうことかというと、たとえば「大和(やまと)の民(たみ)」は、「大和の」と編(あ)み居(ゐ)、「大和の」と自分を全体編成し全体も編成している者。それが「たみ(民)」。漢字表記では「民、人、群生、生霊、蒼生」といった書き方もする。

「宮材(みやき)引く泉の杣(そま)に立つ民(たみ)の息(やす)む時なく恋ひわたるかも」(万2645:杣(そま)で働く者のように、重い材を引く者のように、休むことなく私はあなたに恋ひつづけています、という歌ですが、この歌は「杣(そま)」の表記が特異であり、「追馬喚犬」と書いて「そま」と読む。馬を「そ」と追い犬を「ま」と呼んだということなのですが、あなたに心を奪われた私はそんな馬や犬のような状態だ、ということでもあるのでしょう)。

「前の世の契りつたなくてこそ、かく口惜しき山賤となりはべりけめ、親、大臣の位を保ちたまへりき。みづからかく田舎の民となりにてはべり」(『源氏物語』)。