◎「たぶれ(狂れ)」(動詞)

「たまふれ(魂狂れ)」。「たま(魂)」はその項。「ふれ(狂れ)」は「ふり(生り・振り・遊離り)」の項参照。意味は、遊離してしまうことです。「たまふれ(魂狂れ)→たぶれ」は、人としてある人格一般が浮遊的に遊離しずれたような動態情況になること。人間としての時空を超えた一般的あり方ではなくなった、頭がおかしくなった、どうかしてしまった、というような動態情況になることを表現する。

「…たぶれたる(多武禮多流)醜(しこ)つ翁(おきな:老人)の…」(万4011:これは、その老人が気が狂ったりしているわけではなく、非常に大切にしていた鷹を逃がしてしまった老人を怒りにふるえるようにそう罵(ののし)っている)。

 

◎「たぶらかし(誑かし)」(動詞)

「たぶれ(狂れ)」に「おびやかし(脅かし)」その他の語尾にある「かし」(その項・2021年2月24日)がついたもの。「たぶれ(狂れ)」(上記)も「かし」もその項参照。「たぶれ(狂れ)」の動態情況にすること。人に「たぶれ(狂れ)」を生じさせること。「たぶろかし(誑かし)」という表現もある。

「ソノ神ノカシコキヲ公家ニ讒(そし)リテ是ハ世ヲ狂(タフラ)カスアシキ神ナリ、国ノタメニアシカルヘシト申(まをす)」(『三宝絵詞』)。

 

◎「たぶろかし(誑かし)」(動詞)

「たぶりをかし(狂り犯し)」。「たぶり(狂り)」は「たぶれ(狂れ)」の他動表現。狂(たぶ)り(人を、その心や人間性を、魂が遊離したような状態にし)、犯(をか)す(そうあってはならないことをする)。つまり人を狂わせる。「たぼろかし」とも言う。これは「ぶ」が後音の母音に影響されたもの。似た語に「たぶらかし(誑かし)」(その項・上記)があり、その語は、騙(だま)される状態にする、のような意であるが、「たぶろかし(誑かし)」は判断能力のある人格を侵害していくような意であり、意味はこちらの方が深刻です。

「『…邪気などの、人の心たぶろかして、かかる方にて進むる(尼になりたい思いにさせる)やうもはべなるをとて…』」(『源氏物語』)。