◎「たぶ」
「たわふる(撓ふる)」。「る」の脱落。「たわ(撓)」は「たわみ(撓み)」の項参照。「ふる」は「ふれゐ(振れ居)」。振れる状態にあること。全体は、撓(たわ)み振れるもの、の意。耳下部の小さな肉塊部を「みみたぶ(耳朶)」という。日本髪の後部の髪の纏(まと)まり出た部分を「たぶ」と言い、「たぼ」ともいう。「たぼ」は「たぶ」にそれが長くなった印象が加わり「たぶを(たぶ緒)」。
◎「たぶさ(髻)」
「たぶふさ(たぶ房)」。「たぶ」はその項。「たぶ」のようでもあり「ふさ(房)」にもなっているもの。髪を頭頂でまとめたものを言う。
◎「たぶさ(手)」
「たまへゐさへゐ(給へ居障へ居)」。「まへゐ」が「べゐ」のような音(オン)をへつつ「ぶ」になり「へゐ」が「ふ」になり「たぶさふ」のような音(オン)を経つつ「ふ」は脱落し「たぶさ」になった。「たまへゐさへゐ(給へ居障へ居)→たぶさ」は、発生させ(与え)、遮(さへぎ)り(抑止し)、のような意味であるが、それを行う身体部分、すなわち手(て:肩から先すべて)を意味する。これは、それだけの力(社会的影響力)のある者の手を表現した素朴な尊称でしょう。
「(天照大神は)便(すなは)ち八坂瓊(やさかに)の之五百箇(いほつ)御統 御統此云,美須磨屢(みすまる) を以(も)て其(そ)の髻鬘(みいなだき)及(およ)び腕(たぶさ)に纒(まきつ)け…」(『日本書紀』)。
「腕 …ウデ タブサ」「肘 …ヒチ カヒナ タフサ」(『類聚名義抄』)。
◎「たふさき(褌)」
「たはふせはき(たは伏せ履き)」。「たは」は「たはけ(戯け)」や「たはれ(戯れ・婬れ」などの「たは」。呆れるような愚かなことですが、ここではとりわけ性的な方面を言っている。「ふせ(伏せ)」は「ふし(伏し)」の他動表現であり、動態に特化的発生感を生じさせ経過させること(→「ふせ(伏せ)」の項)。「たはふせはき(たは伏せ履き)→たふさき」は、(とりわけ性的な)戯(たは)けたことをそこに特化的発生感を生じさせ経過させる履物(はきもの:身につけるもの)、ということなのですが、どういうことかというと、性的なことを、そこに特化的独立域をつくり、勝手に出て行き動き回ったりせぬようそこに閉じ込めるように伏せておく、そこにおさめておく、もの、ということなのです。この語が、下半身の、肌に直接触れる、下着を意味する。後世でいう「ふんどし」のようなものですが同じ形体ではないでしょう。男も女ももちい、「したのはかま」と言ったりもする。漢字表記は「衳」や「衳子」とも書く。「衳」は『廣韻』に「小褌也」とある字。
「我が背子が犢鼻(たふさぎ)にするつぶれ石の吉野の山に氷魚(ひを)ぞ下がれる」(万3839:これは「由(よ)るところ無き歌」を作れと言われ作った歌。つまり、無意味な歌)。
「褌 ……袴而無跨謂之褌 ……和名須万之毛能一云知比佐岐毛乃 ……犢鼻褌…今三尺布作之形如牛鼻者也…衳 衳子 毛乃之太乃太不佐岐…小褌也」(『和名類聚鈔』)。
「襣 …犢襣 太不佐伎」 (『新撰字鏡』)。
「犢鼻根 タウザキ 或浴衣」 (『節用集』(室町末期))。
「犢鼻 タフサキ 褌 又云下帯」 (『書言字考節用集』(1717年)) 。