◎「たひ(鯛)」
「たわひ(撓日)」。「わ」の脱落。「たわ(撓)」は「たわみ(撓み)」という動詞の語幹や「枝(えだ)もたわたわ(多和多和)」(万2315)と言われるような語。意味は、加えられた外力に対応し自己を維持しつつ柔軟に応じている状態であること。「たわひ(撓日)→たひ」は、赤みを帯びて光り撓(たわ)んだ日のような印象の魚、の意。魚の一種の名。 生物学的には、タイ科に分類されても黒系統の体色のものもいる。また、習慣的に~ダイと呼ばれても、分類学的にタイではないものもいる。それらと区別するため、後世ではた、本来のタヒはマダヒと言われたりもする。
「醤酢(ひしほす)に蒜(ひる)搗(つ)きかてて鯛(たひ)願(ねが)ふ吾(われ)にな見えそ水葱(なぎ)の羹(あつもの)」(万3829:これは宴席での戯歌。さまざまな物の名を読み込めというテーマに応えたもの。「水葱 ……奈木」(『和名類聚鈔』)。
「鯛 ………和名太比 味甘冷無毒 貌似鯽而紅鰭者也」(『和名類聚鈔』:「鯽(セキ)」はフナ(鮒))。
◎「たび(足袋)」
「ちあはび(路淡び)」。「び」は「都び」「荒び」その他のそれ。この「び」は、(現実にはないが)~がありありと有り、という表現であり、「ちあはび(路淡び)→たび」は、(現実はそうではなく固く荒々しいのだが)歩行において路(ち)が淡(あは)く、衝撃柔らかく、現れるもの、という意味。これは足先に履く履物です。原形は獣の皮で作りましたが、後世では木綿や絹その他で作る。元来はこれを履いて歩いたのかもしれませんが、平安時代には(公家でのことですが)これを履き、さらに沓(くつ)を履いている。
「単皮履 …………今案野人以鹿皮爲半靴,名曰多鼻, 冝用此単皮二字乎」(『和名類聚鈔』:ようするに、「たび(多鼻:足袋)」の語源は「単皮」の音(オン)だと言っている)。
「猿の皮のたびに沓きり履きなして…」(『宇治拾遺物語』:「沓(くつ)きり」は後部が短くなっている履物の一種)。