◎「たはし(束子)」
「たはせすり(手馳せ擦り)」の音変化。語尾のR音は退行化し「たはすい」のような音(オン)を経、「たはし」になった。「た」は手(て)の情況にあることを表現する。手を素早く動かし(走らせ)擦(す)るもの、の意。古くは藁を束ねたものなどを用い、それで何かをこすることにより何かを磨いたりその汚れを落としたりした。方言には「たばし」があり、「たばしり(手走り)」という語があった可能性もある。
「『…六十ばかりのばばァめが、たはしをもつて、きやぁがつて。おせなかをあらひませうとぬかしやァがる』」(『東海道中膝栗毛』)。
◎「たはし(戯し)」(形シク)
「たはああし(呆ああし)」。「たは(呆)」はその項(12月13日)。「ああ」は感嘆発声。何かに呆れているわけですが、これは性的なことに度を越して嗜好が強いことを言う。いわゆる好色であること。
「妷 ……樂戯也 婬也 躭(耽)也…太波志」(『新撰字鏡』(『群書類従』版):「妷」は『廣韻』に「兄弟之子」とあるような字であり、それがなぜこのような意味になるのかは不明。和製漢字か)。「婬 ………タハシ」(『類聚名義抄』)。
「九てう(九条)のもろすけ(師輔)のおとと(大臣)いとたはしくおはしてあまたの北のかたの御はらにおとこ十一人をんな六人そおはしける」(『栄花物語』)。