◎「たなぎらひ(たな霧らひ)」(動詞)

「たな」は「たなぐもり(たな曇り)」の項参照。「きらひ」は「きりはひ(霧這ひ)」。全体の意は、世界が、埋め尽くされたように、霧の情況に覆われること。

「たな霧らひ雪も降らぬか梅の花咲かぬが代(しろ)にそへてだに見む」(万1642)。

 

◎「たなぐもり(たな曇り)」(動詞)

「とうはにやくもり(戸上にや曇り)」。「や」は感動・詠嘆。「うは(上)」は「うへ(上)」の語尾A音化による情況化表現(→「うはのそら(上の空)」)。「とうはにや(戸上にや)」は、戸(と)が上(うへ)の情況になってか…という感動・詠嘆。戸が上にかぶさっているのか…ということ。そのように曇(くも)ることが「とうはにやくもり(戸上にや曇り)→たなぐもり」。空(そら)全域が雲に覆われ、青空は一点もない。青空を思わせる部分もない。同じ意味の「たな」が用いられた動詞として「たなぎらひ(たな霧らひ)」がある。

この語、『古事記』天孫降臨の部分にある「たなぐも(多那雲)」(その項)とは別語。

「…たな曇り 雪は降り来 さ曇り 雨は降り来」(万3310)。