◎「たで(蓼)」

「たちをいえ(立ち尾癒え)」。「を(尾)」は線状のながいもの。「いえ(癒え)」は緊張がなくなり安らかに緩和した安堵の状態になること。これは草性植物の名ですが、その花穂(赤系)が立ち上がりそして緊張がなくなり安堵したように垂れるその形態の印象による名。この植物は、薬味としてですが、食用になる。

「我が宿の穂蓼(ほたで)古幹(ふるから)摘み生(おほ)し実になるまでに君をし待たむ」(万2759)。

「蓼 ……和名多天 人家恒食之…」(『和名類聚鈔』)。

 

◎「たで」(動詞)

「タンチえ(胆治得)」。「タン」は「胆」の音(オン)であり、この語は、中国語では、内臓器の一の名でもあるのですが、身体内部やその力を象徴する語にもなり、大胆(ダイタン)、胆力(タンリョク)などという表現もある。「治(チ)」は治(をさ)まることであり、病気や怪我なら治(なほ)ること。「タンチえ(胆治得)→たで」、胆(タン)による治(チ)を得(え)る、とは、病気や怪我をその身体内部から発動される力で直そうとすることであり、外部からそれを発動させるための刺激を加える。具体的におこなわれることは、たいていは、熱めの湯に浸された布を患部にあてたり、叩いたり、といったことです。逆に、冷却水がもちいられることもある。似た対処として、船内部で何かを燃やし、火の熱をあて、煙でいぶし、といったことをおこない、船中の虫などを除去することも「たで」という。

「或時上人温室に入て、瘡をたでられけるが、心身快して…」(『太平記』)。

「一 船を借り居てたつる(たづる)時、船を燐破たらは借主可辨事」(『船法』(伊予の廻船式目):「燐破」は、船内部の船体表面を炭火のように焼き過ぎて穴をあけたということか)。