◎「たて(縦)」

「たちへ(立ちへ)」。「へ」は方向性のある助詞。「たちへ(立ちへ)→たて」は、人間身体の発育や動態情況や植物(とくに樹木)の生育情況などにおいて発生を感じさせる方向。平面なら進行方向。織物では、織りにつれ発生していく方向の糸が「たていと(経糸・縦糸)」。また、日(ひ:太陽)の(地球上から見た)進行は発生を感じさせ、その進行たる東西の進行が「日(ひ)のたて」(下記万52)といわれる。「涼しさや都を竪(たて)に流れ川(鴨川)」(與(与)謝蕪村)を根拠に「たて」が南北を意味すると言われることがありますが、この俳句は蕪村によるものであり、この表現は「縦断(ジュウダン):南北に貫く」「横断(オウダン):東西に貫く」という漢語の影響によるものでしょう。

「池(いけ)の裏(うち)、縦(たて)と横(よこ)と二十町(はたところ)餘(あまり)許(ばかり)なり」(『備前風土記』)。

「…日本(やまと)の 青香具山(あをかぐやま)は 日の経(たて)の 大御門(おほきみかど)に 春山路(はるやまぢ) 滲(し)みさび立てり 畝火(うねび)の この瑞山(みづやま)は 日の緯(よこ)の 大御門に 瑞山(みづやま)と 山さびいます…」(万52:「春山路(はるやまぢ) 滲(し)みさび立てり」は、一般に、原文(西本願寺本)の「路」を「跡」に書き変え、「春山と繁(し)みさび立てり」と読まれている。「繁(し)み(あるいは、茂み)」は木々がしげっていることを意味するらしい。しかし、青香具山が春山が茂っているのをみるかのように立っている、という表現は奇妙でしょう。「春山路(はるやまぢ) 滲(し)みさび立てり」は、青香具山が、青々とした春の山路が目に、そして身に、しみ自分がそれになってしまうかのように立っている、ということ。この部分の原文(西本願寺本)は「春山路之美佐備立有」)。

 

◎「たて(楯)」

「たて(立て)」であり、「たち(立ち)」の他動表現連用形名詞化。原意は、発生させたもの。現象や動態に対する障害として立てたものである。「たてつき(盾築き)」は反抗の構えを見せること。

「此時(このとき)、登美能(とみ(地名)の)那賀須泥毘古(ながすねびこ) 自登下九字以音 軍(いくさ)を興(おこ)して待(ま)ち向(むか)へて戰(たたか)ひき。爾(ここに)御船(みふね)に入(い)れたる楯(たて)を取(と)りて下(お)り立(た)ちたまひき」(『古事記』:これだけでは主語は明瞭ではありませんが、神倭伊波禮毘古命(かむやまといはれびこ:神武天皇)は、ということです)。

「今日(けふ)よりは返り見なくて大君の醜(しこ)の御楯(みたて:美多弖)と出で立つ我れは」(万4373)。

「楯 ……和名太天」(『和名類聚鈔』)。