◎「たづたづし」(形シク)
「たちつたちつし(経過ちつ経過ちつし)」。「たち(経過ち)」は「たち(立ち・発ち・経過ち)」の項。「時(とき)がたち」などのそれ。「たちつたちつし(経過ちつ経過ちつし)」は、一気にある経過が進行するのではなく、少し経過し滞(とどこほ)り、また少し経過し滞(とどこほ)り、また少し経過し滞(とどこほ)り…と経過する印象であること。この語は語音も意味も「たどたどし」に似ていますが、別語。
「夕闇は路(みち)たづたづし(多豆多頭四)月待ちて行(ゆ)かせ吾が背子その間(ま)にも見む」(万709)。
「鶴(たづ)が鳴き葦(あし)べをさして飛び渡るあなたづたづし(多頭多頭志)ひとりさ寝(ぬ)れば」(万3626:うとうとしては醒め、うとうとしては醒め、眠れないということ)。
「雪降りて路たつたつし逢坂の関の岩かと見えみ見えずみ」(『国基集』)。
◎「たって」
「ちはって(地這って)」。地を這(は)って、ということであり、地を這うように人にひたすらなにごとかを願うことや、動態(とくに苦痛や痛み)がそうした状態になるような深刻なものであることを表現する。「っ」は「ひ」の、いわゆる促音便と言われる現象ですが、この現象がいつごろからあるか、くわしいことはわかっていない。
「鳴海・宮(名古屋熱田の門人)へは音信ばかりにて立ち寄り申さず候へば、(その門人が)名古屋まで見舞に参り、鳴海へ引き返すべきよし達而(たって)申し候を(申したが)、(その門人へ)いろいろ挨拶いたし帰し候」(「松尾芭蕉書簡」元禄7年閏5月21日)。
「有田の庄の傾城町の者共、お願の筋ござる迚(とて)、達て願まする」(「歌舞伎」『幼稚子敵討(をさなごのかたきうち)』)。
「取引先の社長のたっての希望でそうしたいということなので…」。
「得齊毒味いたせしに、果してお茶に毒薬あつて忽(たちま)ち血を吐きたつての苦しみ…」(「歌舞伎」『黄門記童幼講釈(くわうもんきをさながいしやく)』)。
「亭主庭にて蜂にさゝれあいたあいたとたつてのくるひ居れば…」(「咄本」『評判の俵』)。