◎「たづかなし」(形ク)

「たづきはなし(たづきは無し)」。「たづき」はその項(下記)。「は」は助詞。途方に暮れ、どうしたら良いかわからない状態になっていることを表現する。「たづきなし」に意味は酷似するわけですが、「たづき」が提示されることによりそれへの思いは強い。

「(金(くがね)を)拙(をぢな)くたづかなき(多豆可奈伎)朕時(わがとき)に顕(あらは)し…」(『続日本紀』宣命)。

 

◎「たづき」

「ちはていき(路果て。行き)」。「たどき」とも言いますが、「いき(行き)」と「ゆき(行き)」の交替が起こっているのでしょうし、それにより濁音化も起こっているのでしょう。「ちはていき(路果て。行き)」だけでは意味はわかりにくいのですが、たとえば、「言ふすべのたづきもなきは(伊布須敝能 多豆伎母奈吉波)…」(万4078)などは、どう言ったらいいのか、その術(すべ)の(行くべき)路(みち)は果ててしまい、行きがない(進むことがない)ことは…、という意味になる。つねに「たづきを知らず」や「たづきもなしに」といった否定で表現される。

「草まくら 旅にしあれば 思ひやる(思いを伝える) たづき(鶴寸)を知らに 網(あみ)の浦の 海處女(あまをとめ)らが 焼く塩の 思ひぞ焼くる 我が下情(したごころ)」(万5)。

「…神葬(かむはふ)り 葬(はふ)りまつれば 往(ゆ)く道の たづき(田付)を知らに 思へども しるしを無(な)み…」(万3324)。

「暁(あかとき)のかはたれ時に島蔭(しまかぎ)を漕ぎ去(に)し船のたづき(他都枳)知らずも」(万4384:文末の「も」は詠嘆)。

「世間(よのなか)の繁(しげ)き借廬(かりいほ)に住み住みて至らむ国のたづき(多附)知らずも」(万3850)。

「…思はぬに 横風(よこしまかぜ)の にふふかに 覆ひ来(きた)れば せむすべの たどき(多杼伎)を知らに…」(万904)。

 

◎「たつき()」

「たちふき(断ち振き)」。(通常は伐(こ)るのだが)「こる(伐る)」というよりも断(た)ち切る印象になり「ふく(振く):振る」斧(をの)。刃幅の広い斧をいう。「たづき」とも言った。

「まがきする飛騨のたくみのたつき音(ね)のあなかしがましなぞや世の中」(『大和物語』)。

「鐇 ……多都岐 広刃斧也」(『和名類聚鈔』)。

「鏍 ……立鬼」(『新撰字鏡』(天治本・六合館複製・六巻):これは「立鬼」と読めるのですが、これで「たつき」と読むのであろうか)。

ほかに、生活の術(すべ)、のような意味の「たつき」という語もある。