◎「たぢろき」(動詞)
「たちゆれおきいき(質揺れ起き行き)」。「たち(質)」はそれをそれたらしめるあり方。そのあり方がなくなればそれはそれではなくなる(→「たち(質)」の項・11月9日)。その「たち(質)」が揺れる、動揺する、とは、それがそれでなくなりそうな事態になること。それが「起(お)き行(い)く」とは、それが現象として発生し進行すること。たとえば橋が「たぢろけ」ば、橋が崩れそうになっていたりし、橋が橋ではなくなりそうな事態へ進んでいる。人がある情況に「たぢろけ」ば、その人はその情況にいられる状態ではなくなりそうな状態になっていく。「たぢろぎ」と濁音化もする。
「朝夕につたふいたたの橋なれは 桁(けた)さへ朽ちてたちろきにけり」(『堀川百首』:「いたた」は「いただ」であり、「射(い)只(ただ):徒労を射る」、「いたあだ(板徒):板が無駄」、「いたあだ(痛徒):痛みが無駄」がかかっているということか)。
「文の道はすこしたぢろぐとも、その筋(すぢ)は多かり」(『宇津保物語』:「その筋(すぢ)」は、この少し前で言われている、官(つかさ)にしたり学士にしたりするということか。それが多い、とは、その可能性があるということ)。
「前にたてたる弓鉄炮。差取引つめ。散々に討退け。垗(タヂロク)處について出。…」(「幸若」『本能寺』)。
◎「たつ(龍)」
「たちゆまき(立ち揺巻:立ち、揺れ。巻く)→たつまき(竜巻)」という表現から、それが謎の生物が空へ上がっているものという想像により、その謎の生物が「たつ」と呼ばれた。「ゆ(揺)」は揺れること。自然現象の「たつまき(竜巻)」は「たつ(龍)」が螺旋状に舞い上がっていると考えたわけです。
「龍のくびの玉をえとらざらしかば…………………たつはなる神のるいにこそ有けれ。それが玉をとらむとて…」(『竹取物語』)。
「龍 ………和名太都 四足五采甚有神霊者也……鱗虫三百六十六而龍爲之長也」((和名類聚鈔))。
◎「たづ(鶴)」
「たちうつす(立ち現鳥)」。「うつ(現)」は明晰な現実感を表現しますが、これが鮮やかさ→美しさの表現になっている。「す」は鳥を意味する(その項)。「たちうつす(立ち現鳥)」は、立つ美しい鳥、の意。まるで人が立つような姿勢をするその姿が印象的だった。鳥の一種の名。別名「つる」。「つる」という語は『万葉集』の時代にもあったが、歌にはもちいられていない。
「若の浦に潮満ち来れば潟(かた)をなみ葦辺をさしてたづ(多頭)鳴き渡る」(万919)。
「鶴 ……和名豆流 以鵠長喙高脚者也……楊氏抄云多豆」(『和名類聚鈔』)。