◎「たたなづく」
「たたぬはつづく(経たぬ葉続く)」。「たち(経ち)」は、月日(つきひ)が経(た)ち、時間が経(た)ち、などのそれ(→「たち(立ち・発ち・経過ち)」の項)。「は(葉)」は時間を意味する(→「はは(母)」の項)。経(た)たぬ葉(は)が続(つづ)く、経過しない時間が続く、とはどういうことかというと、それは時間変化のない世界にある、それは永遠、ということ。そして、「たたなづく青…」(あらたな生命として芽生えた青々とした新緑)、「たたなづくにきはだ(柔肌)」といわれ、その美しさ新鮮さが永遠の世界にあることであることが表現される。
この語は動詞とも言われ、枕詞とも言われ、意味は、重なること、と言われる。動詞「たたね(畳ね)」がなんらかの変化をしているということでしょう。しかし、この語は成熟した動詞として活用したりもせず、なんらかの語を導き出す枕詞というわけでもなく、独特な意味をもった慣用表現ということでしょう。
「やまとは国のまほろば たたなづく(多多那豆久) 青垣(あをがき) 山ごもれる やまとしうるはし」(『古事記』歌謡31)。
「やすみしし 我ご大君の 高しらす 芳野(よしの)の宮は たたなづく 青垣隠(ごも)り…」(万923)。
「たたなづく青垣山の隔(へな)りなばしばしば君を言問(こととは)はじかも」(万3187)。
「…玉藻(たまも)なす か依(よ)りかく依(よ)り なびかひし 妻(つま)の命(みこと)の たたなづく(多田名附) 柔膚(にきはだ)すらを 劔刀(つるぎたち) 身に副(そ)へ寝(ね)ねば…」(万194)。
◎「たたなはり(畳はり)」(動詞)
「たたねなはり(畳ね縄り)」。「なはり(縄り)」は「なは(縄)」の動詞化。畳(たた)んだ縄のような状態になること。連なるものが絡み合うように重なる。
「やすみしし わが大君 ………のぼり立ち 国見を爲(せ)せば たたなはる(畳有) 青垣山 山神(やまつみ)の 奉(まつ)る御調(みつき)と ………」(万38)。
「紅梅の織物の御衣(おんゐ)にたゝなはりたる御髪(みぐし)の裾(すそ)ばかり見えたるに…」(『是中納言物語』)。