◎「ただし(糺し・正し)」(動詞)

「たてとはし(立て問はし)」。「たて(立て)」は発生させること。なんらかのものごとを思考対象とし、認識対象とする。「とはし(問はし)」は「とひ(問ひ)」の使役型他動表現。なにに問ふことをさせるのかと言えば、立てられた、発生させた(ものごととしては、発生させられた)、それです(発生させられたものごととしては問はれる状態になる)。ものごとが問はれる状態になっている場合、ものごとを思考しているのは人であり、ものごとは問ひ問はれることになる。そうした努力が進行することが「たてとはし(立て問はし)→ただし」。

「大泊瀬天皇(おほはつせのすめらみこと)、萬機(よろづのまつりごと)を正(ただ)し統(ふさ)ねて、天下(あめのした)に臨(のぞ)み照(てら)したまふ」(『日本書紀』)。

「国つ神空にことわる中ならば  なほざりごとをまづやたゞさむ」(『源氏物語』:これは「八洲(やしま)もる国つ御神(みかみ)も心あらば あかぬ別れの中をことわれ」(これは雷神に向かって言っている)という源氏からの歌に対するある女性からの返事の歌)。

「或(あるい)は惡(あ)しき人を見て、倦(おこた)りて匿(かく)して正(ただ)さず。其の見聞(みき)くに隨(したが)ひて、糺彈(ただ)さば、豈(あに)暴惡(あらくあしきひと)有(あ)らむや」(『日本書紀』)。

「法衆を匡(ただし)理(をさ)むる」(『三蔵法師伝』)。

「姿勢をただす」。「ゐずまひをただす」。

 

◎「ただし(正し)」(形シク)

動詞「ただし(糺し・正し)」により、たとえば「糾(ただ)し、生(い)き、ことは…」(糾し、生命を得、「こと」となったのは…)→ただしきことは(正しきことは)…、あるいは、「糾(ただ)し、生(い)きゆ、ことをなし…」(「ゆ」は方法を表現する助詞:糾し、生命を得ることにより、「こと」をなし…)→ただしくことをなし(正しくことをなし)…、といった表現から「ただし」という形容詞が生じた。意味は、問ひ問はれ生命を得ていることやものであること。この語は、漢文訓読系などの、知的活動をおこなっている者の著述に中心的に見られる。

「既に正しからず。枝葉自ら傾き、誤りに逐ひて疑を生す」(『三蔵法師伝』)。

「容貌正(タダシク)して色乱れず」(『大智度論』)。

「理正しき者其の言を直(ただ)しくす」(『大唐西域記』)。

「されども、その人、道の掟(おきて)正(ただ)しく、これを重くして、放埒(はうらつ)せざれば、世の博士(はかせ)にて、万人(ばんにん)の師となる事、諸道変(かは)るべからず」(『徒然草』)。

「いつゝにはたゞことうた いつはりのなきよなりせばいかばかり人のことのはうれしからまし といへるなるべし。これは、ことのととのほりただしきをいふなり」(『古今和歌集』序)。

「『…正しく名字を知りたる者候はず』」(『平治物語』)。