◎「たたき(叩き)」(動詞)

「たてはき(縦掃き)」。「たてはき」は、なにかを立(た)てて掃(は)くのではなく、縦(たて)の動態で掃(は)く。「はき(掃き)」という動態は、通常は、たとえば、古代において、繭を育てている部屋などで、床に散った桑の葉の枯れ滓(かす)その他を、横方向の動態で払い飛ばすように移動し室外や屋外へおいやったりすることを表現するが、それを縦方向の動態でおこなうことが「たてはき(たてはき(縦掃き)→たたき」。縦方向とは、なにものかに対する水平方向ではなく、垂直方向。この動態はそのなにものかに対する強弱さまざまな打撃になりますが、それにより、そのなにものかに付着した塵(ちり)や埃(ほこり)その他を払う。打撃によりその塵(ちり)や埃(ほこり)などを分離し遊離させ、その後は横方向に払ったり、風力にまかせて飛ばしたりする。この動態は、衣服や布団(古代の)に付着した塵(ちり)や埃(ほこり)その他を払うことから起こっているものでしょう。つまり、「たたき(叩き)」は、なにものかへ縦方向の衝突を行うことであり、その衝撃力は表面に付着したものを払い落とす程度のものであり、そのなにものかを破壊するような強力なものではない。ただし、他の動態が加わり「たたきのめす(叩きのめす)」や「たたきこはす(叩き毀す)」といった表現はある。「へらず口(ぐち)をたたく」といった表現は、口、とくに舌、の動きを塵や埃でも払っているかのように表現したもの。江戸時代には「敲(たたき)」という刑種があった。単独のさほど重大ではない窃盗などに、そして男のみに、科せられ、長さ60センチほどの棒のようなもので50回ないし100回背中などを打ち懲らしめるもの。

「かゝる程に、門(かど)をたゝきて、『くらもちの皇子(みこ)おはしたり』と告ぐ」(『竹取物語』)。

 

◎「たたき(抱き)」(動詞)

「たたき(た抱き)」。語頭の「た」は「たは(呆)」に由来するものであり、「た」の項(9月5日)参照。「たき(抱き)」も「たき(抱き)」の項(9月27日)参照。呆れるほど抱くということなのですが、ようするに我を忘れ抱く。「たたきまながり」という表現がある

この語は「たたき(叩き)」と解されることが多いですが、そう解すると(下記にあるような)歌などの意は異様なものになる。語頭の「た」を、手(て)、のA音化・情況化とするものもありますが、その場合も下記『日本書紀』の歌などは、手を纏(ま)き手で抱き、という不自然な表現になる。

「… 白き腕(ただむき) あわ雪(ゆき)の 若やる胸を そだたき たたき(多多岐)まながり …」(『古事記』歌謡4:「腕(ただむき)」「あわ雪(ゆき)」「そだたき」「まながり」はそれぞれその項。この「たたき」が「叩き」だとすると、男が女の乳房を夢中になって叩きながら見つめ合っている)。

「… 妹(いも)が手を 我に纏(ま)かしめ 我が手をば 妹(いも)に纏(ま)かしめ まさきづら たたき(多々企)交(あざ)はり …」(『日本書紀』歌謡96:「まさきづら」は「まさきかづら」の「か」の脱落であり、「まさきかづら」は後世に言う「定家葛(ていかかづら)」ですが、「まさきかづら」は「まひさきかづら(舞ひ咲き葛)」でしょう。五つの花弁が回るように咲くその花の印象による名)。