◎「たしなし(絶望し)」(形ク)
「たしにいえなし(足しに癒え無し)」。「たしねなし」のような音(オン)を経、「たしなし」になった。「に」は、動態を形容する「に」。「白木綿(しらゆふ)花(はな)に落ちたぎつ…」(万1107)や「岩もとどろに落つる」(万3392)などの「に」のような、動態を形容するそれ。「たしにいえなし(足しに癒え無し)→たしなし」は、「たし(足し):不足のおぎない」の状態に、足(た)しになる状態で、「いえ(癒え):安堵す」ることが無い。つまり、不安、緊張の回復の見込みはなく、絶望化している。「絶望し」はここだけの表記。
「徳(いきほひ)を布(し)き恵(めぐみ)を施(ほどこ)して困(くるしく)窮(たしなき)を振(すく)ふ」(『日本書紀』)。
「此(こ)の事は死より劇(たしなし)とおもふ」(『大智度論』)。
「無念無念と拳を握り、終に泣かぬ弁慶が足(たし)ない涙をこぼせしは」(「浄瑠璃」『義経千本桜』)。
◎「たしなみ(絶望み)」(動詞)
「たしなし(絶望し)」(形ク)の語幹によるその動詞化。「たしなし(絶望し)」はその項参照(上記)。その「たしなし(絶望し)」の状態になること。事態が絶望化すること。絶望したように極度に苦しみつつなにごとかをすることも言う。漢字表記は「窘み」「困み」などと書く。「絶望み」はここだけの表記。
「是(ここ)を以(も)て、風雨(かぜあめ)甚(はなは)だふきふると雖(いへど)も、留(とま)り休(やす)むことを得(え)ずして、辛苦(たしな)みつつ降(くだ)りき」(『日本書紀』)。
「水尽きぬ。此(ここ)に至りて困乏(たしな)む」(『三蔵法師伝』)。
◎「たしなめ(絶望め)」(動詞)
「たしなみ(絶望み)」の他動表現。絶望化した状態にさせること。
「如何(いかに)ぞ我(われ)を陸(くが)に厄(たしな)め、復(また)我(われ)を海(わた)に厄(たしな)むや」(『日本書紀』)。
これらの語は「たしなみ(向上み・嗜み)」「たしなめ(向上め・窘め)」とは別語。