◎「たけび(猛び)」(動詞)

「たけみみふり(猛、耳振り)」。「みみふり」が語尾のR音が退化しつつ「び」になっている。「たけ(猛)」は人に驚くべき発生感(勢ひ感、と言ってもいい)があることを表現する(「たき・たけ」の「たき(発生き)」の項・9月28日)。「たけみみふり(猛、耳振り)→たけび」は、「たけ(猛)」の状態で、人に驚くべき発生感、勢ひ感を感じさせつつ、耳を振動させる(震わせる)こと。この動詞は上二段活用。

「伊都(いつ:稜威) 二字以音 の男建(をたけび) 訓建云多祁夫 蹈(ふ)み建(たけ)びて待(ま)ち問(と)ひたまひしく」(『古事記』)。

「後(おく)れたる 菟原壮士(うなひをとこ)い 天(あめ)仰(あふ)ぎ 叫(さけ)びおらび(於良妣) 𬦸地 牙喫(きかみ)建怒(たけび)て もころ男に 負けてはあらじと」(万1809:「𬦸地」の部分は、地(つち)に伏し、や、地(つち)を踏み、や、足ずりし、といった読みがなされている。読みとしては、天(あめ)仰(あふ)ぎ、の対として、地(つち)に伏し、か)。

「ますらをの思ひ乱れて隠せるその妻天地に通り光(て)るともあらはれめやも 一云 ますらをの思ひたけび(多鶏備)て」(万2354)。

 

◎「たけり(猛り)」(動詞)

「たき(発生き)」が基本になった動詞→「たき・たけ」の項(9月28日)。意味は、驚くべき発生感(勢ひ感、と言ってもいい)があること。人がそうなった場合、自然生態として大声による発声をともなうことが多く、動詞「たけび(猛び)」の影響もあり、人が大声を発したり波が轟き音を発したりすることなども表現する。

「(亀が)便(たちまち)に女(をとめ)に化爲(な)る。是(ここ)に、浦嶋子(うらしまのこ)、感(たけ)りて婦(め)にす」(『日本書紀』:昂奮した)。

「誇 ……挙言也 伊比保己留 又云 太介留」(『新撰字鏡』)。

「嗷 哮  ……タケル サケフ ホユ」(『類聚名義抄』)。

「瀬戸口にたける潮(うしほ)の大淀(おほよど)みよとむとしひのなき涙かな」(『山家集』:「よとむとしひ」は「淀む戸強ひ」か。「(水(涙)をおしとどめ淀ませる)戸(と)たる強制となるなにか」。そんなものはなく、涙はおしとどめられることはなく自由。それは淀みたけることもない)。

 

◎「たける(建・帥)」

「たけへいれゐ(猛へ入れ居)」。全体を「たけ(猛)」の状態へ入れるあり方の者。全体を勇気づけ勇猛にし全体を率いる能力のある者。全体を率いる能力のある頭(かしら)格の者を言う。

「今(いま)後(のち)は倭建御子(やまとたけるのみこ)と稱(たた)ふべし」(『古事記』)。

「國見丘(くにみのをか)の上(うへ)に則(すなは)ち八十(やそ)梟帥有(あ)り 梟帥此云多稽屢(たける)」(『日本書紀』:「梟(ケウ)」は鳥のフクロフであり、中国では悪鳥、猛々しい鳥とされる)。

「伊豆毛多祁流(いづもたける)」(『古事記』歌謡24)。