◎「たけし(猛し)」(形ク)

「たけ(猛)」は「たき・たけ」の項参照(その「たき(発生き)」)。その形容詞表現。発生的効果感・影響感があることを表現する。人間的動態的影響感・効果感は勇敢・勇猛であることによっても生じますが、それを表現することが本質というわけではなく、社会的効果感・人間関係的効果感も表現する。社会的効果感・人間関係的効果感とは、自己を意味や価値あるものとして存在作用させること。

「大君の 遠の朝廷(みかど)と しらぬひ 筑紫の国は 賊(あた)まもる おさへの城(き)ぞと ………とりがなく 東男(あづまをのこ)は 出で向ひ かへり見せずて 勇みたる 猛き(たけき:多家吉)軍卒(いくさ)と…」(万4331:「とりがなく」はその項)。

「生(しやう)・住(ぢゆう)・異(い)・滅(めつ)の移り変る、実(まこと)の大事は、猛(たけ)き河の漲(みなぎ)り流るゝが如し。暫(しば)しも滞(とどこほ)らず、直(ただ)ちに行(おこな)ひゆくものなり」(『徒然草』)。

「いとかばかりの御宿世なれば、誰もたけう心やすく思されたり」(『栄花物語』:「なえたふまじき心地しはべる」と(出産した)本人(藤原嬉子)は言ったが、最近は身体の具合もよく、これほどの「御宿世(前世の因縁。宿命)」の人なので、不安はあったが、人々はだれもが「たけう心やすく思された」)。

「身の憂きをもとにて、わりなきことなれど、うち捨てたまへる恨みのやる方なきに、面影そひて、忘れがたきに、たけきこととは、ただ涙に沈めり」(『源氏物語』「明石」:この部分、諸本により、「面影そひて、忘れがたきに」の部分があるものとないものがある。(自分を)捨てた恨みの彼方に面影添い忘れがたきにたけきこと(自分の誇りを維持すること)とはただ涙にしずむこと、というこの表現は尋常ではない言語表現力)。

 

◎「たけそかに」

「たけしよくかに(猛し避くかに)」。猛(たけ)き状態を避(よ)けるかに。目立たぬように。万1015にある表現ですが、一般的ではありません。この語、基本的に、語意未詳とされる。

「玉敷きて待たましよりはたけそかに(多鷄蘇香仁)来(きた)る今夜(こよひ)し楽しく思ほゆ」(万1015)。