◎「たくはひ(蓄ひ)」(動詞)

「たきえいはひ(高き得祝ひ)」。「たき(高き)」は「たき・たけ」の項(9月28日)。意味は、努力成果たる総量を生じさせること。「いはひ(祝ひ)」もその項。「いはひ(祝ひ)」の原意は、人智の及ばない経験経過情況が動態感をもって作用すること、なのですが、人はその神聖感のある人智の及ばない経験経過情況が維持されるよう、これを穢(けが)し台無しにせぬよう、さまざまなことに「身をつつしむ」ということをする。物の消費など極力控えたりする(古代における「いはひ(齋ひ・祝ひ)」とはそういう意味→「いはひ(齋ひ・祝ひ)」の項・2020年2月22日)。「たきえいはひ(高き得祝ひ)→たくはひ」、すなわち、努力成果たる総量が生じこれを得(え)、祝(いは)ふ、とは、努力成果たる総量に対し、そうした、「身をつつしむ」状態になること。将来や起こる事態を思いつつ溜(た)めを持つ、のような意です。この語は「いはひ(祝ひ)」の原意がわからないとわかりにくい。この語は活用が「たくはへ(蓄へ)」に変化する。

「海神(わたつみ)の 神(かみ)の命(みこと)の み櫛笥(くしげ)に たくはひ(多久波比)置きて 斎(いつ)くとふ(と云ふ) 珠(たま)にまさりて…」(万4220)。

 

◎「たくはへ(蓄へ)」(動詞)

「たくはひ(蓄ひ)」の語尾E音化による自動表現。これは「たくはひ」という語の成熟によるもの。「たくはひ(蓄ひ)」の、蓄(たくわ)えられる何かへの働きかけ性が明瞭になる。「たくはひ」では何かを「たきえ(高き得)」が明瞭だった。

「課役(おほせつかふこと)並(ならび)に免(ゆる)されて既(すで)に三年(みとせ)に經(な)りぬ。此(これ)に因(よ)りて、宮殿(おほとの)朽(く)ち壞(こぼ)れて府庫(みくら)已(すで)に空(むな)し。今(いま)黔首(おほみたから)富(と)み饒(ゆたか)にして、遺(おちもの)拾(ひろ)はず。是(ここ)を以(も)て、里(さと)に鰥(やもを)寡(やもめ)無(な)く、家(いへ)に餘(あまり)の儲(たくはへ)有(あ)り…。」(『日本書紀』)。

「など、そのあたりのたくはへのことどもを危ふげに 思ひて…」(『源氏物語』:領有者のはっきりしない地を耕していたその産物のたくはへを、とられてしまわないかと、心配している)。

「「…法華経を書写供養し奉て、後世のたくはへとせむ」と思ふに…」(『今昔物語』)。