◎「たくしあげ」(動詞)
「たきしふあげ(炊き伏し上げ)」。「たき(炊き)」は、火をつけ加熱したりするわけではなく、発生感を生じさせること(→「たき・たけ」の項・9月28日)。「ふし(伏し)」は、特異的に感覚感のあるなにか、対象として独立化する存在感のあるなにか、を生じさせその動態の経過が起こる(→「ふし(伏し)」の項)。「あげ(上げ)」は、空間的に上昇させたりもしますが、完成感を生じさせること。「たきしふあげ(炊き伏し上げ)→たくしあげ」、すなわち、発生させ対象として独立化する存在感のあるなにかが生じその存在が経過しなにものかやなにごとかが完成する、とは、たとえば、服の、普段は特別に独立的な存在にはなっていない袖を、まとめ、固定させ、そこに特別な存在を完成的に生じさせる→「袖をたくしあげる」。
◎「たくしかけ」(動詞)
「たきふしかけ(炊き伏し懸け)」。「たきふし(炊き伏し)」は「たくしあげ」のそれに同じ(その項)。「かけ(懸け)」は、交感を生じさせることですが、ここでは「言葉をかけ」のそれに同じ。「たきふしかけ(炊き伏し懸け)→たくしかけ」は、相手に独立化する存在感のあるなにかを発生させ言葉を作用させる、ということなのですが、どういうことかというと、相手になにかを言い、相手はこれを理解しこれに対し何か言い、それを理解しまた…という相互交流があるのではなく、相手に、その意思や願望に関係なくなにかを生じさせ、これが存在化し成長していくような言語活動をおこなうこと。つまり、一方的になにかを言う。
「てめへのいふ事ばかりたくしかけていふけれど、おれがこのなりをみや」(「洒落本」『郭通遊子』)。
◎「だくな」
「だクナン(駄苦難)」。「だ(駄)」は空(むな)しくはかないものであることを意味する(その項)。「だクナン(駄苦難)→だくな」は、空しい、何の意味や価値もない苦労、ということ。
「心より先に頭の剃りだくな」(「雑俳」『昼礫』:頭を剃って出家してもなんの役にもたっていないということ)。
「だうな」(その項・9月12日)はこの語の音便と言われますが、別語。